三羽雀
 「しかし元凶は君だろう」
 男性は目の前の少女を指差して反論した。学生はどうしたらこの場を収められるか思案した。
 「……こうなったら、両成敗にするほかないですね」
 「えっ」
 「はあ」
 男性と少女は同時に学生の方を向いた。
 「互いにすぐ謝れば済むことなのに、少なくとも、ここまで話を大きくして時間を無駄遣いしたのは双方の責任でしょう。『ごめんなさい』の一言だけで足りるのだから、さあ」
 先に謝ったのは、春子であった。
 「どうもすみませんでした」
 男性は腕組みをして唸っている。学生は男性の方を見て謝罪を促した。
 「うむ……その、すまんな。さて、家に帰るかな」
 渋々謝った男性は腕を組んだまま早足で去っていく。春子は彼の寂しそうな後ろ姿を見届けた。
 「……ありがとうございました」
 この場を解決してくれた学生を前に、春子は少し深くお辞儀をした。
 「僕はただ偶然通りすがっただけですよ」
 「そんな、学生さんが間に入ってくださらなかったら、私、もっと大変なことになっていたかもしれないし……学生さんのおかげで助かりました。どう御礼をしたらよいか……」
 春子はどこか気恥ずかしくなって(うつむ)いたまま話していた。
 「僕は……女学生さん、君の主張は正しかったと思うよ。もう女性だから、学生だからという理由で男や歳上の言うことを黙って聞き入れるのはナンセンスな時代だ。貴女は貴女の意思や信条をもって、正義であの男性に抗議したのだろう、僕は分かります。いつまでも下を向いていないで、顔を上げて」
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