三羽雀
 「いや、少し考え事を」
 長津も匙を取ったが、完全に上の空で欠き氷を食べている。
 瞬く間に二杯の欠き氷は無くなり、二人とも氷の冷たさで僅かな頭痛を感じていたが、ただ無言で向かい合って座るばかりである。
 「先に謝っておきます」
 苦い表情で手渡されたのはいつもの茶封筒である。今回は些か厚みがあるように思われた。
 「中身を拝見しても」
 「構いません」
 しかし封を開けると、その枚数は普段と変わらないことに気がついた。
 ただ、注文票に書かれた数字は依然として多く、またこれまで定規できっちりと引かれた線に区切られた表とは異なり、走り書きの文字と線が並んでいる。
 その筆跡からは焦りが感じられた。
 (戦況は芳しくない……と)
 「私も主計中佐より連絡は受けているのですが、どうやらその数字は主計中佐が独自に各所へ問い合わせた結果出たものらしいです」
 長津は今回の注文票を手渡されたとき、主計中佐から次のように説明された。
 この仕事を継続的に担当することを申し出たあの部屋の中での出来事である。
 「この注文量、君はどう思う」
 主計中佐から手渡された数枚の注文票に目を通した。
 「率直に申し上げますと、非常に多いのではないでしょうか。先方はこれに対応できるかどうか」
 軍人会館で幸枝に手渡したときよりも明らかに多い注文量である。
 「そうか」
 手元に返ってきた注文票を見た主計中佐は唸っている。
 「南方筋によれば大変な損害らしい。工廠のほうにも確認したが、何でも大量の部品が必要だと云われ、南方からは何でも良いから戦力を工面しろと云われた」
 長津は何も言わず主計中佐を見ている。
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