三羽雀
 人気(ひとけ)の少なくなったこの街には不似合いな程に騒がしく眩しい小屋が遠くからもよく見える。
 (こんな時期に賭け事だなんて、まあ大層なことね)
 小屋の外には新たに三人の男達が立っていた。
 薄汚れたぼろを着た中肉中背の男の両隣を塞ぐように、背広の男が二人立ちはだかっている。
 片方はぼろの男と同じくらいの背丈で幾らかふくよかな体型であったが、もう片方は縦に長く、上着越しにも分かるほどに堅牢な体格である。
 唯一共通していたのは、この戦時には不自然なほどに真新しい、まさに昨日仕上がったばかりのような背広だけであった。
 (確かこの辺りには犯罪者の集団が有るとか無いとか聞いたことがあるような……違ったかしら、もしかしたら他の街だったかもしれないわ。こんな情勢だし、私も注意すべきね)
 幸枝は三人組に気づかれないよう伏し目がちに通り抜けようとしたが、聞き慣れた単語が耳に入った。
 「長津中尉殿、清水中尉殿、申し訳ありません」
 (長津中尉……?)
 立ち入ってはならない空気を察した幸枝は、その場に居るであろう「長津」が自分の知る「長津」なのかを確かめたかったが、顔を上げることなどとても出来ず、反射的に路地の向こう側へと逃げるように歩いていく。
 顔を見ていないからこそ目と鼻の先に居る三人のうちの一人が長津正博である確証は無いが、同時に長津が何者であるのかという疑問が恐怖へと変わりつつあった。
 長津はその振る舞いからそれまでの「担当者」とは明らかに違う軍人で、口外してはならないはずの軍の内情さえも説明する人間である。しかし、ひとつだけ伝えられていない情報があった。
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