三羽雀
 春子は少しでも長く清士と一緒にいたいという気持ちで、清士を家に上げた。
 「おゆき、清士兄さんにお紅茶をお出しして」
 「はあ」
 清士を応接間に通し女中に紅茶を頼んだ春子は、鞄を二階の自室に置いて一階へ戻ってきた。
 「また前みたいにみんなで集まって食事会をしたいわ」
 紅茶を一口飲んだ春子は、そう言って清士に目配せをする。
 松原家の長男である勇が入寮してから、清士、清義と順番に進学と入寮が続き、全員揃っての食事会は滅多に開催されなくなった。
 「そうだなあ、また皆で集まることができればなあ」
 清士の心境は複雑だった。今の日本はすでに泥沼の戦争を始めている。多くの人が兵士として駆り出されている中で、いつかは「自分の番」が来るかもしれないと思うのだ。春子の兄である勇も今は軍学校のはずだが、いつかは戦地へ征くはずだ。いつまでも悠長にはしていられない。
 「あまり長居するのも迷惑だろうから、帰らせてもらうよ」
 「もうお帰りになるの?」
 「ああ、また今度ゆっくり話そう」
 春子は「また今度」という言葉に期待をかけた。
 しかし、清士の表情は春子に見えないところで、(もや)がかかったように曇っている。 玄関で清士を見送った春子は、二階に上がり、ベッドにストンと身体を落とした。
 (あんなふうに清士兄さんと会えたなんて……夢じゃあないかしら)
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