三羽雀
「長津さんは軍の他のかたとは全く異なるかただと思っていました。しかしそれも、私の思い込みでしたのね」
長津は未だ弁解を考え直している。
「……或いは、初めから私を取り込むおつもりで?長津さんにお会いしたばかりの時、不思議だったんです。なぜ他のかたと違って私に関心を示し、私を助けてくださるのか。それも全て、あなたがたの策略でしょうか」
水を一口飲み込んだ幸枝は続ける。
「手を汚すことなく利益を得て、また不都合なものを消し去ろうとする……なんと卑劣なことでしょう」
長津は空を見つめていたが、突如としてその冷淡な視線が少女に向けられた。
「伊坂さん、我々は貴女の情報は概ね握っています。お忘れなく」
突き刺さるような目線とその言葉に、幸枝は奥歯を噛み締める。
「あの時、私は貴女の命を奪うことさえもできました。貴女には私がそれを選ばなかったことを考えていただきたい」
単調な語り口で紡がれる言葉には、鈍い重みが伴っている。
幸枝は「命を奪う」という一言で背筋が凍った。
「……私を殺すようなことは……考えられません。あのお仕事があるもの」
「必ずしも貴女が必要な訳ではありません。長男を遣わせば、若しくは他の企業に打診すれば済む話、伊坂工業である必要さえもありません。まあ、全ては主計中佐の裁量なので私の知るところではありませんが」
少女の小さな手の置かれたスカートの生地が、膝の上でぐにゃりと曲げられる。
「無作法にも程があります……!」
幸枝は声を震わせて続けた。
長津は未だ弁解を考え直している。
「……或いは、初めから私を取り込むおつもりで?長津さんにお会いしたばかりの時、不思議だったんです。なぜ他のかたと違って私に関心を示し、私を助けてくださるのか。それも全て、あなたがたの策略でしょうか」
水を一口飲み込んだ幸枝は続ける。
「手を汚すことなく利益を得て、また不都合なものを消し去ろうとする……なんと卑劣なことでしょう」
長津は空を見つめていたが、突如としてその冷淡な視線が少女に向けられた。
「伊坂さん、我々は貴女の情報は概ね握っています。お忘れなく」
突き刺さるような目線とその言葉に、幸枝は奥歯を噛み締める。
「あの時、私は貴女の命を奪うことさえもできました。貴女には私がそれを選ばなかったことを考えていただきたい」
単調な語り口で紡がれる言葉には、鈍い重みが伴っている。
幸枝は「命を奪う」という一言で背筋が凍った。
「……私を殺すようなことは……考えられません。あのお仕事があるもの」
「必ずしも貴女が必要な訳ではありません。長男を遣わせば、若しくは他の企業に打診すれば済む話、伊坂工業である必要さえもありません。まあ、全ては主計中佐の裁量なので私の知るところではありませんが」
少女の小さな手の置かれたスカートの生地が、膝の上でぐにゃりと曲げられる。
「無作法にも程があります……!」
幸枝は声を震わせて続けた。