三羽雀
しかし、それが今後の取引に良い影響を及ぼすかと問われれば、その答は「ノー」である。
この表現し難い違和感を晴らすには、すぐ隣を歩く海軍中尉当人と向き合わなければならないのだ。
「いえ、行きましょう」
思考を重ねた彼女の回答である。そして幸枝の話は続く。
「私どものほうは万事良好です、お仕事も、家族も……。ただ……正直に申し上げますと、どうして長津さんと接すれば良いのか、分からなくなってしまったんです」
長津は内心驚いていたが、一方で、やはり昨夏からの件が障ったのだと確信している。
聡明で分別のある、いわば業界のクイーンともいえる少女も、考えてみれば歳は二十。そこらの女と比較しては格別の人間であるように見えたが、それこそが不自然であり、武官を前にして戸惑うほうが生粋の少女なのであろう。
「貴方は、私を殺すおつもりは無いと仰いました。しかし……どうしても完全には信じられないんです。長津さんはあんなに実直にお話ししてくだすったのに……。以前のように、貴方に全信頼を置くことが出来なくなったのかもしれません……厭だわ、私としたことが……」
言葉尻に漏れた少女の心からの声を聴いた長津は、流石に遣る瀬無くなって、とうとう文字通り何も言えなくなってしまった。
「何時迄もこんな気持では居られないというのは分かり切ったことですし、このままでは今後のこのお仕事にも良くないというのも承知なのですけれど……まったく、私ったら……普段はこんな小胆じゃあないのに」
幸枝は、悄然と干上がった笑いを溢す。
この表現し難い違和感を晴らすには、すぐ隣を歩く海軍中尉当人と向き合わなければならないのだ。
「いえ、行きましょう」
思考を重ねた彼女の回答である。そして幸枝の話は続く。
「私どものほうは万事良好です、お仕事も、家族も……。ただ……正直に申し上げますと、どうして長津さんと接すれば良いのか、分からなくなってしまったんです」
長津は内心驚いていたが、一方で、やはり昨夏からの件が障ったのだと確信している。
聡明で分別のある、いわば業界のクイーンともいえる少女も、考えてみれば歳は二十。そこらの女と比較しては格別の人間であるように見えたが、それこそが不自然であり、武官を前にして戸惑うほうが生粋の少女なのであろう。
「貴方は、私を殺すおつもりは無いと仰いました。しかし……どうしても完全には信じられないんです。長津さんはあんなに実直にお話ししてくだすったのに……。以前のように、貴方に全信頼を置くことが出来なくなったのかもしれません……厭だわ、私としたことが……」
言葉尻に漏れた少女の心からの声を聴いた長津は、流石に遣る瀬無くなって、とうとう文字通り何も言えなくなってしまった。
「何時迄もこんな気持では居られないというのは分かり切ったことですし、このままでは今後のこのお仕事にも良くないというのも承知なのですけれど……まったく、私ったら……普段はこんな小胆じゃあないのに」
幸枝は、悄然と干上がった笑いを溢す。