三羽雀
「貴女は私の知る限り誰よりも強い、とても若い女性のようには思えないほどに芯が太く頭脳明晰、気品もあり、美しいひとです」
「そんなに肯定されると、かえって怖くなりますね」
幸枝の声は通りを走り抜ける自動車に掻き消されそうな程に、か細いものである。
長津は、本心の伝わらないことにいよいよ焦るような気がして、居ても立っても居られぬ思いで歩みを止めて真剣な表情を向けた。
「伊坂さん、私の気持を分かってくださいませんか。私は貴女を守りたい。貴く、美しく、賢い貴女を、他の人間に任せることなど──お気づきではないかもしれませんが、今この瞬間も、警察や憲兵がこちらを見てはいないか、他の武官が追跡してはいないか、挙動の怪しい者は居ないか、本件が他人に知られず、貴女に危害が及ばぬよう常に気を張り巡らせながら、貴女含め周囲にそれを悟られぬよう細心の注意を払っています。これと同様のことをできる能力を持つ者が他に居るでしょうか。軽薄で身勝手な行動で、不必要に貴女を危険に晒したくないのです。確かに私は不快などという言葉を遥かに超える、恐怖を貴女に与えましたし萎縮させてしまったでしょう、事実私は立場上文官や市民よりも権限がありますから。しかし、私はその権限を使って貴女を守ることについて常に出来る限りの最善を尽くしてきたのです。手荒な方法や見当違いの思考をとったこともあったかもしれませんが、この危険な任務に対して、動機は何であろうとただ真摯に取引を続けてくださる貴女を守りたいという一人の人間としての気持に偽りなどあるでしょうか」
幸枝はただ緘黙として俯いている。
「そんなに肯定されると、かえって怖くなりますね」
幸枝の声は通りを走り抜ける自動車に掻き消されそうな程に、か細いものである。
長津は、本心の伝わらないことにいよいよ焦るような気がして、居ても立っても居られぬ思いで歩みを止めて真剣な表情を向けた。
「伊坂さん、私の気持を分かってくださいませんか。私は貴女を守りたい。貴く、美しく、賢い貴女を、他の人間に任せることなど──お気づきではないかもしれませんが、今この瞬間も、警察や憲兵がこちらを見てはいないか、他の武官が追跡してはいないか、挙動の怪しい者は居ないか、本件が他人に知られず、貴女に危害が及ばぬよう常に気を張り巡らせながら、貴女含め周囲にそれを悟られぬよう細心の注意を払っています。これと同様のことをできる能力を持つ者が他に居るでしょうか。軽薄で身勝手な行動で、不必要に貴女を危険に晒したくないのです。確かに私は不快などという言葉を遥かに超える、恐怖を貴女に与えましたし萎縮させてしまったでしょう、事実私は立場上文官や市民よりも権限がありますから。しかし、私はその権限を使って貴女を守ることについて常に出来る限りの最善を尽くしてきたのです。手荒な方法や見当違いの思考をとったこともあったかもしれませんが、この危険な任務に対して、動機は何であろうとただ真摯に取引を続けてくださる貴女を守りたいという一人の人間としての気持に偽りなどあるでしょうか」
幸枝はただ緘黙として俯いている。