三羽雀
 「信じてくれとは言いませんから、私がこのように思っているということだけでも分かっていただけたらと思います」
 黙殺(もくさつ)しているように見えた少女であったが、その肩は小刻みに揺れ、啜り泣いている様子であった。
 「ひどく穿(うが)った見方をしていました。長津さんがそのようなお考えでこのお仕事を引き受けてくだすったのだとはつゆ知らず……でも、長津さんのお話を伺って一つ見当がつきました」
 ぱっと見上げた小さな顔には、ほの赤く染まった頬が浮かんでいる。
 「恐れながら、長津さんのことを『軍人らしくない軍人』だと思っていました。横暴でもなければ、私のことをよく知ろうとしてくだすって、こんなに誠実で真面目で……私の中の軍人とはかけ離れていて……でも、長津さんは勇ましくて、鷹揚としていて……そういうところを見ると、長津さんこそが本当の軍人さんなのではないかと思い始めました。ただ、それでいて飄々としていらっしゃるから、どんなかたなのか、どんなことを考えていらっしゃるのか、判らなかったんです。でも、たった今、判りました」
 幸枝は長津の手に自らの手を置いて、
 「もう長津さんのことは疑えません、むしろ、信頼したいです」
 と優しい笑顔を向けた。
 一方の長津は目を大きく見開いて固唾を飲んだような表情をしていたが、
 「伊坂さんにそう言っていただけて嬉しいです」
 と言って自動車の走る大通りを眺めた。
 「話は変わりますが、伊坂さんは、ワインは飲みますか」
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