三羽雀
 春子はポカンと口を開けたまま座っている。
 「いけませんか」
 「いや、あの……」
 困る春子に対して勝俊は話を続ける。
 「僕は、あの公園で貴女を見た日からずっと好きでたまらないんだ。それに……」
 突如として勝俊の表情に(かげ)りが出た。
 「この時勢では……」
 春子は何も言わなかった。
 公園で出会った勝俊のことだけあって自分の素性を知っているとは考え難いが、自宅は知られているし、まさか利用されているのではないかと考えていた。
 「神藤さんは音楽学校に通っていらっしゃるのでしょう?学校には軍から勉強にいらしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。私は詳しいことは知りませんが、仮に徴兵になるとしても、神藤さんにお兄さんはいらっしゃらないでしょう。何故(なぜ)御長男である神藤さんがそのようなことを?」
 春子の父は、陸軍の中でも多少なりとも顔が利く人物であり、父から陸軍の話を時々聞いていた春子は、どうして勝俊が時勢や徴兵を気にしなければならないのか予想がつかなかった。
 勝俊は、キッパリと言い放った春子の目線にたじろいでいる。
 (まさか、春子さんは軍の関係者なのか?)
 (もしかして、神藤さんは私のことを知らなかった……?)
 「あ、あの……すみません、動揺して」
 春子の頬がカアッと赤くなった。
 「……僕は志願して軍楽隊に入ります」
 沈黙を破った勝俊は、話を続ける。
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