三羽雀
 (成田さんの云っていた()という線は間違っていなさそうだわ。でも、弱ったわね……彼の名前を出すわけにもいかないし、私だって彼との今の関係を保ったままでいたいし……此処はひとつ、軽く釘を刺しておこうかしらね)
 「女として見られていない、というところね」
 (事実、成田さんはこの娘のことは苦手なようだし……良いわよね?)
 春子の手が止まる。
 「ええ、まあ……致し方無いと言えばそれ迄なのだけれど。何せその人とはもう幼い頃からの家族ぐるみの関係なので」
 『感動的な再会ね』──同じ店で清士に放った皮肉が鮮明に蘇る。
 少し肩を竦めた様子の春子は、
 「どちらも本当に優しくて、いい人なんです。ただ、私は前者の彼にどうお返事をしたら良いか分からないんです」
 と悩みを打ち明けた。
 (例の娘で間違いない……だからこそ、どう振る舞うべきか迷うけれど……そもそもこの娘はどの出身なのかしら、松原という苗字は何処かで聞いたことのあるような気もするけれど……いえ、そんなことより今はどう返事をするかよ、一旦この娘を成田さんから引き離しておこうかしら)
 ふうっと息を吐いた幸枝は、
 「恐らく、前者は春子ちゃんに相当惚れているわね。でも、その春子ちゃんは後者に惚れている……対立無き関係ね」
 (対立は正に此処に在るのだけれど)
 春子は黙りこくっている。
 「春子ちゃん。私が貴女の立場だったら、きっと私の好きな人一筋だわ。どんなに辛く苦しい境遇であったとしても、その方と添い遂げるの……貴女にはその覚悟があるかしら」
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