三羽雀
「実は、ちょっとした悩みごとがあって」
店主が紅茶を持ってきたところで春子の話が途切れる。
「どんなことなの?」
聞き返した幸枝は、給仕されたばかりの紅茶を一口含む。
「今日、とある人から結婚を前提にお付き合いを申し込まれたんです。私は全くそんな筈ではなくて」
春子はティースプーン二杯分の白砂糖を紅茶に溶かしながら続ける。
「私にはその人とは別にお慕いしている人がいるのだけれど、その人は私のことをいつも妹のようにばかり見ていて……」
「女として見られていない、というところね」
ティーカップの中でくるくると円を描いていたスプーンが止まった。
「ええ、まあ……致し方ないといえばそれまでなのだけれど。何せその人とはもう幼い頃からの家族ぐるみの関係なので」
少し肩を落とした春子は、紅茶を飲みながら話す。
「どちらも本当に優しくて、いい人なんです。ただ、私は前者の彼にどうお返事をしたら良いのか判らないんです」
幸枝はふうっと息をついた。
「おそらく、前者は春子ちゃんに相当惚れているわね。でも、その春子ちゃんは後者に惚れている……対立無き関係ね」
「……」
「春子ちゃん。私があなたの立場だったら、きっと私の好きな人一筋だわ。どんなに辛く苦しい境遇であったとしても、その方と添い遂げるの……あなたにはその覚悟があるかしら」
「……」
しんと静まり返ったような紅茶の水面が、揺らぐように動く。
「あらいけない、もうすぐ時間だわ。先においとまするわね、さよなら」
店主が紅茶を持ってきたところで春子の話が途切れる。
「どんなことなの?」
聞き返した幸枝は、給仕されたばかりの紅茶を一口含む。
「今日、とある人から結婚を前提にお付き合いを申し込まれたんです。私は全くそんな筈ではなくて」
春子はティースプーン二杯分の白砂糖を紅茶に溶かしながら続ける。
「私にはその人とは別にお慕いしている人がいるのだけれど、その人は私のことをいつも妹のようにばかり見ていて……」
「女として見られていない、というところね」
ティーカップの中でくるくると円を描いていたスプーンが止まった。
「ええ、まあ……致し方ないといえばそれまでなのだけれど。何せその人とはもう幼い頃からの家族ぐるみの関係なので」
少し肩を落とした春子は、紅茶を飲みながら話す。
「どちらも本当に優しくて、いい人なんです。ただ、私は前者の彼にどうお返事をしたら良いのか判らないんです」
幸枝はふうっと息をついた。
「おそらく、前者は春子ちゃんに相当惚れているわね。でも、その春子ちゃんは後者に惚れている……対立無き関係ね」
「……」
「春子ちゃん。私があなたの立場だったら、きっと私の好きな人一筋だわ。どんなに辛く苦しい境遇であったとしても、その方と添い遂げるの……あなたにはその覚悟があるかしら」
「……」
しんと静まり返ったような紅茶の水面が、揺らぐように動く。
「あらいけない、もうすぐ時間だわ。先においとまするわね、さよなら」