三羽雀

女と令嬢

 それから終業し、志津と父は診療所に来た女中から受け取ったらしい風呂敷を片手に持った女を連れ、電気を落とした医院のすぐ隣にある家へ戻った。
 女は早速家の中を見回している。
 志津はどこか物色しているように見えるその女の視線が気に食わない。
 「お邪魔いたします」
 「お客さんなんだから、そう(かしこ)まらずとも楽に過ごしてくださいな」
 父は女を真の客として迎えているようである。
 「はあ、有難うございます」
 女はやはり格付けをするような、そんな目線で居間を見渡している。
 「お風呂とお夕飯の支度をしますね。お父さん、少し待ってて」
 水を入れた急須を囲炉裏(いろり)に置いた志津はいそいそと(たすき)を結びながら台所へ向かった。
 その間、父と女は居間でまったりとしている。
 「あの()にもこんなに小さくてまるまると……」
 (またあの話だわ)
 志津は(なか)(あき)れた心地で溜息を吐きながら米を研いでいる。
 戸棚の奥から引っ張り出した、我が家にある限り一番の上物である。
 (いつもこうなのよ。お父さんの昔話ときたら、思い出したように小さい時のほっぺが可愛かった、抱いてやるといつも笑っていてとか、大変な思いをさせて不憫だとか……第一、肉親から不憫だと言われる私の気持を少しは察してほしいものだわ。私は決して「可哀想な子」なんかじゃないのに……ああもう、こんなことは忘れてお風呂の準備をしてこようかしら)
 心の苛立(いらだ)たしさを鎮め、通夜のように静まり返った居間を通り過ぎて風呂場へ向かう。
 (私は幸福者なのよ)
 無心で湯の用意をする。
 水が徐々に温まり、湯気の出るのをぼうっと眺めている。
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