三羽雀
腕時計を見ながら席を立った幸枝の足音が少しずつ遠ざかっていく。
「おじさん、ご馳走さま。はい、二人分のお代ね」
それから来客はなく、春子は一人残されたテーブルで紅茶を飲んでいた。
どれほどの時間が経っただろうか、思い悩みながら飲み続けていた紅茶も湯が尽きた。
(もう帰らなくちゃいけない時間ね)
春子は席を離れ店主に、
「ご馳走様でした」
と会釈をして店を出た。
路地裏から小さな通りに出ると橙色の空が広がっている。
(この方向だったかな……)
春子は幸枝に案内されて通ってきた道を思い出しながら帝大の前を目指す。
少し迷い遠回りしながらも、通い慣れた通りに着いた。
(ここまで来ればもう問題ないわ)
長く伸びる自分の影を見ながら歩いていると、目の前にもうひとつの影が見えた。
春子は、その後ろ姿で影の主が分かった。
「清士兄さん」
ひょっこりと顔を覗くように清士の目の前に現れた春子は、にっこりと笑う。
予想通りだと、そしてただ清士に会うことができたのを嬉しく思った春子とは対照的に、清士はきまりの悪いような表情をしている。
「ああ、春子ちゃんか。悪いが今日は急いでいるんだ」
「少しくらい良いじゃない」
つれない清士の足取りは早く、春子もそれに追いつこうと必死である。
「これから大切な用事があるんだ。また今度にしよう」
「ちょっとだけ、ね?」
「今日は春子ちゃんには構っていられないんだ」
清士はきっぱりと春子を突き放すように言い、その場を足速に去っていく。
「ひどいわ」
取り残された春子はそう言って帰宅した。
「おじさん、ご馳走さま。はい、二人分のお代ね」
それから来客はなく、春子は一人残されたテーブルで紅茶を飲んでいた。
どれほどの時間が経っただろうか、思い悩みながら飲み続けていた紅茶も湯が尽きた。
(もう帰らなくちゃいけない時間ね)
春子は席を離れ店主に、
「ご馳走様でした」
と会釈をして店を出た。
路地裏から小さな通りに出ると橙色の空が広がっている。
(この方向だったかな……)
春子は幸枝に案内されて通ってきた道を思い出しながら帝大の前を目指す。
少し迷い遠回りしながらも、通い慣れた通りに着いた。
(ここまで来ればもう問題ないわ)
長く伸びる自分の影を見ながら歩いていると、目の前にもうひとつの影が見えた。
春子は、その後ろ姿で影の主が分かった。
「清士兄さん」
ひょっこりと顔を覗くように清士の目の前に現れた春子は、にっこりと笑う。
予想通りだと、そしてただ清士に会うことができたのを嬉しく思った春子とは対照的に、清士はきまりの悪いような表情をしている。
「ああ、春子ちゃんか。悪いが今日は急いでいるんだ」
「少しくらい良いじゃない」
つれない清士の足取りは早く、春子もそれに追いつこうと必死である。
「これから大切な用事があるんだ。また今度にしよう」
「ちょっとだけ、ね?」
「今日は春子ちゃんには構っていられないんだ」
清士はきっぱりと春子を突き放すように言い、その場を足速に去っていく。
「ひどいわ」
取り残された春子はそう言って帰宅した。