三羽雀
新たな年を迎えようとしている今この瞬間でさえ罪悪感に苛まれているのだ、これから一生付き合っていかねばならないのかもしれない。
今でこそ康弘は遥か遠くの南方に居るが、彼が自らの目の前に立つ日が来たら、いよいよ自分の心がもたない。そう思ってしまうのである。
丁度七年ほど前に、一度だけ康弘の働く姿を見たことがある。
医学界で天才だと持て囃された若き医師は、開業したばかりの病院で業務をこなしていた。
彼の兄と共同で始めたその病院では兄が内科を、弟が小児科を担当していて、診療所以上病院以下といった中位のところである。
二つに分かれた診察室を兄弟で分け合って使っている。
このときは既に婚約をしてから二年は経っていて、康弘は自らの病院を見てほしいと言って彼女を呼んだのであった。彼女はある平日の仕事終わりに康弘の元を訪ねた。
敷地の中に入ると赤い花を付けた椿の木の並ぶ庭があり、その奥には小児科の診察室がある。窓越しに、笑顔で子どもの胸に聴診器を当てる彼の白衣姿が見えた。
病院に入ると、
「あら、志津さん!応接間でお待ちください、副院長は丁度今日最後の患者さんを診ているところなので、終わり次第こちらへ案内します」
と受付係が応接間のほうと見える方角に手を差し出す。
「はあ、有難うございます」
丸い机には白いレースのクロスが布かれ、壁掛け時計の時を刻む音が響いている。
椅子に腰掛けた志津は、柔らかな斜陽に照らされながら、窓の外の景色を眺める。そのうち、康弘とお茶出しの事務員がやってきて、部屋には許嫁と湯気のゆらめく緑茶だけになった。
今でこそ康弘は遥か遠くの南方に居るが、彼が自らの目の前に立つ日が来たら、いよいよ自分の心がもたない。そう思ってしまうのである。
丁度七年ほど前に、一度だけ康弘の働く姿を見たことがある。
医学界で天才だと持て囃された若き医師は、開業したばかりの病院で業務をこなしていた。
彼の兄と共同で始めたその病院では兄が内科を、弟が小児科を担当していて、診療所以上病院以下といった中位のところである。
二つに分かれた診察室を兄弟で分け合って使っている。
このときは既に婚約をしてから二年は経っていて、康弘は自らの病院を見てほしいと言って彼女を呼んだのであった。彼女はある平日の仕事終わりに康弘の元を訪ねた。
敷地の中に入ると赤い花を付けた椿の木の並ぶ庭があり、その奥には小児科の診察室がある。窓越しに、笑顔で子どもの胸に聴診器を当てる彼の白衣姿が見えた。
病院に入ると、
「あら、志津さん!応接間でお待ちください、副院長は丁度今日最後の患者さんを診ているところなので、終わり次第こちらへ案内します」
と受付係が応接間のほうと見える方角に手を差し出す。
「はあ、有難うございます」
丸い机には白いレースのクロスが布かれ、壁掛け時計の時を刻む音が響いている。
椅子に腰掛けた志津は、柔らかな斜陽に照らされながら、窓の外の景色を眺める。そのうち、康弘とお茶出しの事務員がやってきて、部屋には許嫁と湯気のゆらめく緑茶だけになった。