三羽雀
 (こんなところに生きている人が居るのかしら……いや、そんなことは考えてはいけないわ)
 幾重(いくえ)にも折り重なった人を一つ一つ退けながら、少しずつ前へ進んでいく。
 「ひっ……!」
 時折、思わず顔を覆って叫び出しそうになるような惨烈な死に方をした人の姿が目の前に飛び込んでくる。
 医学や薬学について十数年学び続けて来た筈だが、人はこんな死に方をするのか、と信じられないような気持にも、これらの人たちに何の仕打ちがあってという遣る瀬ない気持にもなった。
 血相を変えず、ただひたすらに生存者を探しているのは康弘である。
 一人一人手を引き、何か反応が無いかと探っている。生存者が見つかるというよりは人間の様々な死に方を見せつけられているような気がするが、ただ無心で生きている人を探し続けている。
 全ては、一人でも多くの人を救いたい、まだ息の根のある人がいるならば、その人を助けたいという気持で成り立っているのである。
 正直なところ、正視できないような人ばかりであった。綺麗に死ねることがいかに幸せか──何人もの人の手首を取りながら、そんな達観したことまで考えてしまった。
 川を見ていれば分かるが、きっと地上でも同じことが起きていたに違いない。辛うじて早いうちに火を消し止められたか、まだこの人たちは「良かったほう」なのかもしれないが、燃えるものが燃え尽きるまで燃えていた可能性も有る、何ならこの橋の下は今まさにそれである。
 誰か一人でも生き残っている人は居ないか──康弘は執念で人を掻き分け続けた。
 「……志津!」
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