三羽雀
 「ええ。それで……二人はどこで知り合ったのかしら」
 母は春子を一瞥(いちべつ)した。
 「えっと、その……」
 「私が先に春子さんに話しかけました」
 言葉の詰まる春子を前に、口を開いたのは勝俊であった。
 「公園で僕の演奏するホルンを聴いてくだすったのです。嬉しさのあまりつい……」
 勝俊は照れるように笑いながら話す。
 「そうなのね……少し、二人で話をしても良いかしら」
 母は春子に退席を促した。
 「少し席を外します」
 春子は応接間を出て、居間で掃除をしているゆきに話しかけた。
 「おゆき、少し暇ができたから相手してくれない?」
 「ええ、お菓子をお持ちしましょうか」
 一方、応接間の母は、春子が部屋から離れたのを確認して話を続けた。
 「勝俊くん、春子と結婚してはどうかしら」
 勝俊は思わぬことに目を大きく開いた。
 「それは、一体……」
 「あの子は少しお転婆なところがあるし……ねえ、今後世間もどうなっていくか分からないわ。勝俊くんさえ良ければ、春子を貰ってほしいのよ」
 実は、母は春子が清士を好きだということは数年前から悟っていた。しかし、数々の女性の影のある清士の元に自分の娘を遣るのはどこか気が進まないのであった。
 「貴方さえ良ければの話よ。断ってもらっても構わないわ」
 「僕は……」
 勝俊は母の念押しに急かされるように答えた。
 「僕は、春子さんのことがとても好きです。正直……すっかり惚れてしまっています。あんなに健気で可憐な人を、僕は他に見たことがありません。実は、無礼なことかもしれませんが、つい先日、春子さんに結婚を前提にお付き合いしていただけないかとお尋ねしたばかりなのです」
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