三羽雀
野戦病院では運ばれてくる兵は多かったが、軍医や衛生兵もそれなりに居た。それが、此処では軽く数十人は居るであろう人達を数人で診なければならない。
そして、此処では女の声が聞こえる。
戦場は男の場所であるから、当然怪我をして運ばれてくるのも男しか居ない。物資不足に陥った戦地において薬や麻酔も無い状況で治療するのは本来の医療とはかけ離れていて完治する見込みなど考えるにも値しないほどであったし、所詮は兵士である。治療されず野放しにされるよりはまだ良いだろうという最低限の考えで、内心では我慢ならないほどに痛いかもしれないが耐えてくれという渾身の思いで処置を行っていた節があった。
しかし、今晩はどうであろうか。手元に有るのは消毒薬と包帯だけ、麻酔はおろか麻酔医すらない。
女にもあの時と同じことをしなければならないのか?
康弘には野戦病院での治療と同じ状況をこの市街地の中で、民間人に対して、しかも女子供に対して出来る自信が無かった。
「康弘さん、しっかり」
妻に袖を摘まれて、再び現実に引き戻される。
「怖いし、痛いし、辛いけれど……助けなくちゃ。あの人達が苦しんでいるのを黙って見ては居られないわ。私たちに出来ることはやってしまいましょう」
腕まくりをした妻はいやに落ち着いていたが、マスクを着けて数本の消毒薬の入った瓶を抱え、未だ燻る街の中へと入って行った。
ひと呼吸置いた康弘もその背中を追う。
空地では警防員の姿も見え、二人は作業中の彼らとガーゼや包帯、消毒薬を分け合いながら生き残った人の治療を始めた。
「聞こえますか」
一人一人声を掛けていく。
まだ息をしている者の脈を測る。
そして、此処では女の声が聞こえる。
戦場は男の場所であるから、当然怪我をして運ばれてくるのも男しか居ない。物資不足に陥った戦地において薬や麻酔も無い状況で治療するのは本来の医療とはかけ離れていて完治する見込みなど考えるにも値しないほどであったし、所詮は兵士である。治療されず野放しにされるよりはまだ良いだろうという最低限の考えで、内心では我慢ならないほどに痛いかもしれないが耐えてくれという渾身の思いで処置を行っていた節があった。
しかし、今晩はどうであろうか。手元に有るのは消毒薬と包帯だけ、麻酔はおろか麻酔医すらない。
女にもあの時と同じことをしなければならないのか?
康弘には野戦病院での治療と同じ状況をこの市街地の中で、民間人に対して、しかも女子供に対して出来る自信が無かった。
「康弘さん、しっかり」
妻に袖を摘まれて、再び現実に引き戻される。
「怖いし、痛いし、辛いけれど……助けなくちゃ。あの人達が苦しんでいるのを黙って見ては居られないわ。私たちに出来ることはやってしまいましょう」
腕まくりをした妻はいやに落ち着いていたが、マスクを着けて数本の消毒薬の入った瓶を抱え、未だ燻る街の中へと入って行った。
ひと呼吸置いた康弘もその背中を追う。
空地では警防員の姿も見え、二人は作業中の彼らとガーゼや包帯、消毒薬を分け合いながら生き残った人の治療を始めた。
「聞こえますか」
一人一人声を掛けていく。
まだ息をしている者の脈を測る。