三羽雀
 「清士兄さんが好きだったのは、幸枝さんだったのかも……私も清士兄さんが大好きだったけれど、清士兄さんからはいつも妹みたいに見られて、女としては見られなかった。いつもしっかりしていた清士兄さんが頼りなさを見せるんだから、きっと幸枝さんに心を開いていたんだわ。幸枝さんは大人の女性だものね、お仕事も立派にしていらっしゃって、幸枝さんこそ広く知られたかたでしょう?」
 「まあ……そうかしら」
 今度の幸枝は顔の火照(ほて)りを冷まそうと手の甲を頬に当てている。
 「伊坂さん……私、伊坂さんに言わなくちゃいけないことがあるわ」
 「私に?一体何かしら」
 おずおずと話し出したのは志津である。
 「正直に言うわね。私、前にあなたにお会いしたときは気取ったお嬢様みたいで、とっつきにくくて、それなのに相手を見透かしてしまうほどに他人(ひと)の気持を考えるのがお上手で……少し憎かったの。でも、今の神藤さんの話に、この工房での働きぶりを見ていたら、それは私の誤解だと分かったわ。伊坂さんは、こう、人を惹きつけて離さないような、熱意があって……魅力的だわ、今までの私のあなたに対する心持、許してくれるかしら」
 未だおどおどとした様子の志津を前に、幸枝は驚き半分、嬉しさ半分といった表情で、
 「許すだなんて!私もあの時は色々と気を張っていたのによくしてくれて……許しもだけれど、感謝でお返しさせてもらうわ」
 と不敵な笑みを見せる。
 「幸枝さんときたら、やっぱり大人なかただわ!私も見習わなくちゃ」
 三人は顔を見合わせて小さく笑った。
 志津もにこりと口の端が上がっている。
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