三羽雀
 「幸枝さん、私……」
 幸枝は玄関先で春子の肩を撫でていたが、
 「とりあえず、お上がんなさいよ。私の部屋に案内してあげる」
 と言って春子の手を取った。
 「特に出せるものがないけれど……お話ならいくらでも聞くわ」
 二階にある幸枝の部屋は、重厚なベッドや机の置かれた部屋であった。
 「そんなに泣いてどうしたのよ」
 春子は(むせ)びながらも話し始めた。
 「私、ずっと好きな人がいるって話していたでしょ。今日、その人がもう出征が近いっていうから……結婚……しましょうって打診したの。でも……あの人は誰とも結婚しないって言うのよ」
 幸枝は申し訳なさそうな顔をしている。
 「そうだったのね……」
 「私、もうどうしたらいいか分からないわ。あの人と結婚できなかったら、もう誰とも結婚したくない……けれど、私はきっと他の人と結婚させられるのよ、だって……軍人の娘だもの、現に私を利用しようとしている人がいるわ」
 涙を流す春子だったが、幸枝にはその涙を拭う素振りは見えない。
 「ねえ春子ちゃん、お相手の方は、何か理由があって結婚を断ったんじゃないかしら」
 「……え?」
 「誰とも結婚しないと仰ったんでしょう?」
 「ええ……」
 幸枝は春子に諭すように話す。
 「ある軍人さんの話よ。その人は、出征前に奥さんから手渡されたお手紙を()ぎ払ってこう言ったの。生きて帰ることの無い自分にそんなもの渡されてたまるか、とね」
 「……どういうこと?」
 困惑する春子を他所に幸枝は続ける。
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