転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました 番外編
「いらっしゃいませー」
にこやかに挨拶をした『Fluffy』の店主は、ドアベルを鳴らして入ってきた客人が大陸一の魔法使いとその娘だと気づき目をまん丸くして固まった。
しかしそこはプロ、すぐに気を取り直すと愛想のよい笑みを浮かべてディーとサマラを出迎える。
「いらっしゃいませ、アリセルト魔公爵閣下、サマラお嬢様。本日はどのようなご入用でしょう?」
少し気障っぽい髭を蓄えた中年の店主に、サマラは元気よく答えた。
「父娘のペアルックを買いにきました! 今度お父様と一緒にパーティーへ行くんです。お父様の三つ揃いと私のドレス、ペアでコーディネートしてください」
嬉しそうに頬を染めて言うサマラの姿に、店主も思わず顔を綻ばせる。年頃の少女が新しい服を買いにくるときはいつだってハッピーに溢れている。見ているだけで周囲までウキウキ心弾むようだ。
それなのに何故隣にいる父親からはこんなにもわかりやすく『しぶしぶ』というオーラが漂っているのだろうか。魔公爵が気難しいというのはもはやこの国の常識だが、それにしたって娘との買い物なのだからもう少し嬉しそうにしたっていいだろうに、と店主はひっそりと思った。
「パーティーですか、それは素晴らしいですね。では閣下とお嬢様にとびきりお似合いのコーディネートをいたしましょう。さあ、こちらへ」
なにはともあれ、相手は権力も財産も王家に匹敵すると言われている魔公爵親子だ。超一流のお客様なのだから半端なものは勧められない。店主は気合を入れつつディーとサマラを新作衣装の並ぶ店奥へと案内した。
「わあ、どれも素敵!」
色とりどりに並んだドレスと三つ揃いに、サマラは顔を輝かせる。華やかなもの、シックなもの、流行の柄から伝統のオールドスタイルまでよりどりみどりだ。自分のドレスもだが、ディーにどれが似合うか考えただけでワクワクする。
「魔法使いの父娘様ですから、これなどいかがでしょうか」
そう言って店主が勧めてきたのは黒色ベースのペアルックだ。黒とはいえ銀糸の刺繍や明るい色をワンポイントで使うことによって暗い印象にはならず、三つ揃いはクールで洗練されていてドレスは上品さが漂っていた。
「いいですね! お父様によく似合いそう」
普段魔法使いのマントを着ているせいもあって、ディーは黒色のイメージが強い。これならペアルックでも抵抗が薄れるのではないだろうか。
「サマラお嬢様にもきっとよくお似合いになりますよ。よろしかったらご試着ください」
店主の勧めでサマラは喜んで試着室へ入っていった。店主が「閣下もよろしかったらご試着ください」と勧めたが、ディーは「必要ない。どうせ娘が決める。俺はなんでも構わん」とすげなく断った。
「見て見てお父様! どうです?」
試着室のドアから出てきたサマラは、普段より少しだけ大人びた気分だった。黒色メインのコーディネートは今までしたことがない。大人っぽくて、それでいて慎ましやかなドレスはなんだか背伸びしたみたいでワクワクした。
「おお、お美しい。ミステリアスでとてもよくお似合いですよ」
店主も褒めてくれてサマラの機嫌は上々だ。――しかし。