転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました 番外編
「大丈夫? びっくりしたよね」

 その場にへたり込みそうになった少年の体を、サマラは支えた。どうやら少年は魔法使いではないようだ。それどころか今までの人生であまり魔法使いと接したことがなかったのだろう、初めて触れる魔法の世界に大きな衝撃を受けているらしかった。

 サマラの手を取ってしっかり立ち直すと、少年は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。そして深々とサマラとレヴに向かって頭を下げる。

「世話になった、感謝する」

 やけに慇懃だなと感心したそのとき、頭を上げた拍子にフードが脱げて、少年の金色の髪と青い瞳の顔が露になった。

「……あれ?」

 サマラは彼の顔に覚えがあった。品が良く知的で凛々しいこの美少年は――

「あっ! バレアン王子!?」

 思わず大きな声を出してしまい、サマラは慌てて自分の口を手で押さえた。バレアンはハッとしたようにフード被り直して俯く。
 辺りを見回したが、ひと気はない。誰にも聞かれていないようで胸を撫で下ろした。

「ごめんなさい……。っていうか、バレアン王子……ですよね? どうしてこんなところに……」

 バリアロス王国の第一王子バレアンは、『まほこい』の攻略キャラのひとりだ。サマラはまだ実際に会ったことはなかったが、ゲーム画面と攻略本で散々ご拝顔してきたので、少年時代だろうと見間違えるはずがなかった。

 バレアンは少し戸惑った様子を見せていたが、やがてためらいながらも口を開いた。

「……僕は王太子だから、将来立派な王になるべく毎日厳しい授業を受けているんだ。でも、少し疲れてしまって……。一回でいいから、自由になってみたかったんだ。今日は王宮は新年の拝謁に来る訪客の対応で忙しいから、僕の警護も甘くなってて。それで今日なら王宮を抜け出せると思って……」

「けど結局王宮の奴らに見つかっちゃったってワケか」

 レヴが言うと、バレアンは「でもきみたちが助けてくれた」と軽くはにかんで笑った。

 サマラの頭には咄嗟にひとつの企みが浮かぶ。攻略キャラのひとりであるバレアンと偶然にも幼少期に出会えたのだ、ここで仲良くしておけば十年後にバッドエンドになる可能性が低くなるのではないかという重要な企みだ。

 と、同時にこの小さな王太子に同情も湧く。彼はまだ八歳のはずだ、将来の王とはいえ勉強漬けの毎日では可哀想だ。なんとかしてあげたい。
 企みと同情が合わさった結果、サマラが言うべき台詞はひとつだった。

「バレアン様、よかったら私たちと一緒に遊びませんか?」
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