転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました 番外編
 バレアンは零れそうなほど大きく目を見開いた。レヴは頭の後ろで手を組んで「お前、おせっかいだなあ。別にいいけど」と呑気に口を挟んだ。

「じつは私たちも大人に内緒で町へ遊びに来てるの」と片目を瞑ってみせたサマラの後ろから、レプラコーンとマリンがやって来る。それを振り返ってから「あのおじさんと子供は人間に化けた妖精よ」と口もとに人差し指を当てて微笑んだ。

 バレアンは青い瞳をキラキラさせて破顔した。無邪気な笑顔は年相応の少年らしく、とても愛らしい。

「んで、王子サマはどこ行くつもりだったんだ? 連れてってやるよ」
 相手が年上だろうと王太子だろうと、レヴの傲慢さは変わらないようだ。実にレヴらしいとサマラは密かに感心する。

 バレアンは「東の大通りへ行きたい」と言った。なんでも新年のお祝いで民族団の楽隊や踊り子がパレードをしているそうだ。そうとは知らず東の大通りを通り過ぎてしまっていたサマラたちは大賛成し、すぐにアンヴァルへ飛び乗った。

 妖精の馬に乗って興奮するバレアンに、レヴは「その外套邪魔そうだな」と指を鳴らして魔法をかけた。バレアンの金髪は栗色に、青い瞳は黒色に変わる。これならばフードを外しても正体はバレないだろう。バレアンは感激し、サマラは(レヴってば気が利くじゃない)と心の中で拍手した。

 あっという間に着いた東の大通りは、とんだ賑やかさだった。笛や弦楽器、手回しオルガンなどが民族音楽を奏で、カラフルな衣装とたくさんの金輪を腕や脚や腰につけた女性がヒラヒラと踊っている。踊り子の前にはジャラジャラと金の装飾をまとったロバの集団がいて、さらに最後尾にはなんと派手な布と金装飾で飾り付けられた象までいた。これにはサマラもレヴもびっくりだ。

「すげー! オレ、あんなの初めて見た!」

「私も! うわ、大きいー!」

「サマラ、何あれ!?」

 サマラとレヴとマリンは興奮しながら象のあとをついていく。曲に合わせ手拍子を打ち鳴らしている人混みを通り抜け、曲がり角で象に手を振った。振り返るとレプラコーンとバレアンもちゃんとついてきており、バレアンも興奮したように頬を紅潮させていた。

「バレアン様も象を見るのは初めて?」

 サマラが聞くと、彼は素直にコクコクと頷いた。

「……今日、無理をしてでも城の外へ出てよかった。象も魔法も、初めて見たけれど素晴らしいものだった。自分の目で見なければわからない感動が世の中にはあることを知れたよ」

 煌めく瞳はとても純粋な向学心に溢れていた。その姿を見てサマラは、ゲームでバレアンが素晴らしい王太子だったことを思い出す。メインヒーローでもある彼は、視野が広く慈悲深く知的で国民を愛する良き次期君主であると同時に、ヒロイン・リリザを一途に愛するパーフェクトヒーローなのだ。

(リリザを虐めるサマラには容赦なかったけど、本質は努力家でものすごく善良な性格なのよね)

 改めて彼を敵に回したくはないな、とサマラは思う。保身のためもあるが、こんな善い人に憎しみの感情を抱かせたくはない。

 そんなことを考えていたら、象の去った道から何やら賑やかな音楽が再び聞こえてきた。

「さあさあラーカ族の伝統工芸品だよ。金の鈴は悪い霊を払ってくれるよ」

 どうやら民族団が工芸品を売り歩いているようだ。派手な模様をあしらった大きな荷車に、ジャラジャラと金の装飾品が掲げられている。

 サマラとレヴとバレアンは顔を見合わせると、肩を竦めて笑った。そして三人で小さな金ピカの象と鈴がついた組紐を買った。

「可愛い!」

「いいじゃん、気に入った」

「僕も。いい記念になった」

 三人はそれぞれ組紐をポケットにしまったり腰につけたりすると、辺りに出ていた露店を見て回った。

 そして午後三時を報せる鐘が鳴る前に、城下町を後にすることにした。そろそろ城の謁見が終わる時間だ。
 
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