天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
未来へ向かって流れゆく
▼未来へ向かって流れゆく
 
 中庭の立派な桜の木が、綺麗に開花した。
 私は、障子を開け放って自室の整理をしながら、桜の花びらが舞い降りる様子を眺めている。
 一族の中で、旦那様抜きで話し合いが行われ、優弦さんが院長になることに決まったのは、つい最近のこと。
 旦那様の弟夫婦は最後まで大反対をしていたようだったけれど、ほとんどの親族が旦那様のワンマン経営には辟易していたらしい。
 旦那様は最初全く聞く耳を持たなかったものの、お義母さんが初めて声を荒らげて説得したお陰で、話し合いに参加してくれるようになった。
 優弦さんはただ静かに状況を説明して、慎重に自分の思いを伝えていた。
 バース性で差別をすることは人権に反する……そんな当たり前の認識を相良家に浸透させるところから説得は始まった。
 毎晩話し合いは行われ、冷戦状態が続いたにも関わらず、優弦さんは私の前では一切疲れた様子を見せなかった。
 心底心配をしていたけれど、私は何も言わずにグッと耐えて待つしかないと思った。
 これは、優弦さん自身がずっと向き合いたいと思っていたことなのだから。
 いくら体調が心配でも、私が口を出すことではない。
 そう決めて……、一月も二月も三月も、ただ優弦さんのことを見守っていた。
 そうして、四月に入った頃……ようやく旦那様が会長の座について現場から離れる……という形でどうにか話し合いがおさまった。
 優弦さん的には徹底的に追放したかったようだけれど、絶対に現場に口出しをしないという条件で進めたらしい。
 そして、私たちは四月いっぱいでこの家を出ていくことに決めた。
 百合絵さんたち女中はそのまま本家に残ることになり、「旦那様に追い出されない限りこの家に尽くす」と言っていた。苦しいときに雇ってもらった恩があるから……と。
 ばあやは私と一緒に新しい家に着いてきてくれることになり、一緒に引っ越しの準備をしている。
 相良家に来てから、約十ヶ月。
 まさかこんなに早くこの家を出ることになるとは、思ってもみなかった。
 感慨深く思いながら、空を見上げる。
 春の澄んだ青い空を見ていると、ここ数カ月に起こった波乱が、少しだけ和らいでいくように思える。
「……日向ぼっこか?」
「え……」
 優弦さんの美しい顔が突然視界に入って来て、思わず驚き固まってしまった。
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