天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
頭の中で完成図を思い浮かべながら、最高の浴衣にするんだという気持ちで、真剣に向き合う。
着る人の気持ちを想像しなさいと、祖母によく言われていた。
この浴衣を着る人が、どんな人と約束があって、どんな場所で着て、どんな思いになるのか。
顔も名前も知らない人を思いながら仕事をするのは、最初はしっくりこなかったけれど、着物を通して色んな人と出会って、失敗も繰り返して、着物を通して人との繋がりを持ちたいと強く思えるようになった。
だから私は、ひと縫いひと縫いに、思いを込める。
気づけば深夜の二時になっていたけれど、私は手を止めなかった。
「百合絵さん。本日は何をお手伝いすればよいでしょうか」
「……では、朝食の下準備をお願いします」
早朝の五時。百合絵さんに指示され、私は味噌汁を担当することになった。
相良家の女中は全員で五名で、百合絵さんが彼女たちを束ねている。
全員私よりも若く、心から相良家の人間を慕っているようだ。
主を信頼することは女中としては素晴らしい心がけだと思うけれど、相良家の本性を知ったら彼女たちはどうするのだろう。
だしを取り、味噌を溶かすと、ふわっと和の香りがあたりに漂う。
小口切りにした九条ねぎが今日の味噌汁の具だ。
「百合絵さん、コンロを使いたいので、一度お味噌汁をこっちに移動してもらえますか」
「分かりました」
一番若い女中の子に指示され、私は両手鍋の取っ手を掴んだ。
かなり高温になっているので、こぼさないように慎重に運ぶ。
しかし、台まであと少しとなったところで、突然視界の角度が急変した。
「熱っ」
百合絵さんにぶつかられ、転ぶまではいかないけれど、熱い味噌汁をこぼしてしまった。
胸からおへそあたりにかけて味噌汁がかかり、あまりの熱さに声を出す。
仕事着である着物を脱ごうと慌てて帯を緩めると、クスクスという笑い声が聞こえた。
「食材費は決まっているのであまり無駄にしないでください」
「え……」
「こんな簡単な仕事もままならないなんて……」
氷を袋に入れて直に肌に当てていると、百合絵さんがすっと横に来てため息交じりにそんなことをつぶやいた。
なるほど……。これは、明らかに私を追い出そうとしている。
ヒリヒリと痛む肌を冷やしながら、私は意外と冷静に今の状況を判断していた。
「私に出ていってほしいですか?」
着る人の気持ちを想像しなさいと、祖母によく言われていた。
この浴衣を着る人が、どんな人と約束があって、どんな場所で着て、どんな思いになるのか。
顔も名前も知らない人を思いながら仕事をするのは、最初はしっくりこなかったけれど、着物を通して色んな人と出会って、失敗も繰り返して、着物を通して人との繋がりを持ちたいと強く思えるようになった。
だから私は、ひと縫いひと縫いに、思いを込める。
気づけば深夜の二時になっていたけれど、私は手を止めなかった。
「百合絵さん。本日は何をお手伝いすればよいでしょうか」
「……では、朝食の下準備をお願いします」
早朝の五時。百合絵さんに指示され、私は味噌汁を担当することになった。
相良家の女中は全員で五名で、百合絵さんが彼女たちを束ねている。
全員私よりも若く、心から相良家の人間を慕っているようだ。
主を信頼することは女中としては素晴らしい心がけだと思うけれど、相良家の本性を知ったら彼女たちはどうするのだろう。
だしを取り、味噌を溶かすと、ふわっと和の香りがあたりに漂う。
小口切りにした九条ねぎが今日の味噌汁の具だ。
「百合絵さん、コンロを使いたいので、一度お味噌汁をこっちに移動してもらえますか」
「分かりました」
一番若い女中の子に指示され、私は両手鍋の取っ手を掴んだ。
かなり高温になっているので、こぼさないように慎重に運ぶ。
しかし、台まであと少しとなったところで、突然視界の角度が急変した。
「熱っ」
百合絵さんにぶつかられ、転ぶまではいかないけれど、熱い味噌汁をこぼしてしまった。
胸からおへそあたりにかけて味噌汁がかかり、あまりの熱さに声を出す。
仕事着である着物を脱ごうと慌てて帯を緩めると、クスクスという笑い声が聞こえた。
「食材費は決まっているのであまり無駄にしないでください」
「え……」
「こんな簡単な仕事もままならないなんて……」
氷を袋に入れて直に肌に当てていると、百合絵さんがすっと横に来てため息交じりにそんなことをつぶやいた。
なるほど……。これは、明らかに私を追い出そうとしている。
ヒリヒリと痛む肌を冷やしながら、私は意外と冷静に今の状況を判断していた。
「私に出ていってほしいですか?」