天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
震えた声で弁明を始める百合絵さんに向かって、優弦さんは冷静に問いかける。
「世莉さんはとくに名家の生まれでもないですし、私達女中と変わらないような身分です。遺伝子もオメガ型で……相良家の繁栄のためには、より優秀なアルファ型の女性の方がいいかと思い……」
そうか。私への怒りは、単純に嫉妬だったのか……。
ここでも、アルファだとかオメガだとか、そんな話が絡んでくるなんて。
ようは、自分の手の届かないような女性だったら、優弦さんとくっついても嫉妬などせずに済んだということなのだろう。
……くだらなさすぎて、呆れて言葉も出てこない。
「井之頭、あれを」
「はい、かしこまりました」
優弦さんは百合絵さんの言葉に何も返さずに、井之頭さんから数枚の書類を受け取った。
そこには、【解雇】という文字が書かれていた。
「長い間世話になった。希望者がいれば、次の職場を紹介するから、今月中に考えをまとめておくように」
「え……?」
「今後、妻である世莉への侮辱は、俺への侮辱とみなそう」
妻、という言葉を初めて彼の口から聞いて、思わず動揺してしまった。
場を一気にピリつかせる冷徹な声に、女中は全員肩をびくつかせた。
井之頭さんは、ひとりひとりに書類を手渡して、淡々と作業を進めていく。
「世莉さん。彼女たちに最後、何か言いたいことは?」
突然そんなことを優弦さんに問われ、言葉を詰まらせた。
彼女たちに、言いたいこと……?
目を真っ赤にして私を睨んでいる彼女たちに、いったいどんな言葉をかけたらいいのかなんて、思い浮かばない。
ただ、この物腰柔らかそうな男は意外に、腹の底は冷徹なのかもしれないと、そう思った。
こんなにも一切の情けなく女中を切り捨てるなんて……。
何も言えずに押し黙っていると、優弦さんは「困らせたね」と言って眉を下げた。
「新しい女中は別途雇うが、君には専属の女中をつけることになった」
「専属……?」
「どうぞお入りください」
うしろの障子がスラッと開いて、背の小さい着物姿のおばあさんが中に入ってきた。
その人を見て、私は瞬時に泣きそうになってしまった。
「ばあや……!」
「世莉お嬢様……っ、大きくなられて……」
彼女・佐藤敏子(さとうとしこ)は、雪島家がまだ会社を持っていたころに勤めてくれていたお手伝いさんだ。
「世莉さんはとくに名家の生まれでもないですし、私達女中と変わらないような身分です。遺伝子もオメガ型で……相良家の繁栄のためには、より優秀なアルファ型の女性の方がいいかと思い……」
そうか。私への怒りは、単純に嫉妬だったのか……。
ここでも、アルファだとかオメガだとか、そんな話が絡んでくるなんて。
ようは、自分の手の届かないような女性だったら、優弦さんとくっついても嫉妬などせずに済んだということなのだろう。
……くだらなさすぎて、呆れて言葉も出てこない。
「井之頭、あれを」
「はい、かしこまりました」
優弦さんは百合絵さんの言葉に何も返さずに、井之頭さんから数枚の書類を受け取った。
そこには、【解雇】という文字が書かれていた。
「長い間世話になった。希望者がいれば、次の職場を紹介するから、今月中に考えをまとめておくように」
「え……?」
「今後、妻である世莉への侮辱は、俺への侮辱とみなそう」
妻、という言葉を初めて彼の口から聞いて、思わず動揺してしまった。
場を一気にピリつかせる冷徹な声に、女中は全員肩をびくつかせた。
井之頭さんは、ひとりひとりに書類を手渡して、淡々と作業を進めていく。
「世莉さん。彼女たちに最後、何か言いたいことは?」
突然そんなことを優弦さんに問われ、言葉を詰まらせた。
彼女たちに、言いたいこと……?
目を真っ赤にして私を睨んでいる彼女たちに、いったいどんな言葉をかけたらいいのかなんて、思い浮かばない。
ただ、この物腰柔らかそうな男は意外に、腹の底は冷徹なのかもしれないと、そう思った。
こんなにも一切の情けなく女中を切り捨てるなんて……。
何も言えずに押し黙っていると、優弦さんは「困らせたね」と言って眉を下げた。
「新しい女中は別途雇うが、君には専属の女中をつけることになった」
「専属……?」
「どうぞお入りください」
うしろの障子がスラッと開いて、背の小さい着物姿のおばあさんが中に入ってきた。
その人を見て、私は瞬時に泣きそうになってしまった。
「ばあや……!」
「世莉お嬢様……っ、大きくなられて……」
彼女・佐藤敏子(さとうとしこ)は、雪島家がまだ会社を持っていたころに勤めてくれていたお手伝いさんだ。