天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
今までされた悪行を思い出しながらも、ばあやの言葉を受けて、私はあることを彼女たちに伝えたいと思った。
じつは今朝、百合絵さんが泣きながら荷造りをしている様子を見てしまい、少なからず胸が痛んだ。
相良家への忠誠心がから回ってまさかこんなことになるとは、一ミリも思っていなかっただろう。
私と同じように身寄りのない彼女たちにとってここがどんな場所なのか……。私は、もっと向き合わなければいけないと思っている。
「え……彼女たちに話したいことが?」
出勤前の優弦さんに少しだけ時間をもらい、私は直球で相談した。
優弦さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに「分かった」と頷いてくれた。
私は頭を下げ、感謝を伝える。
昨日の夜までたくさん考え抜いたことを、やはり彼女たちに投げかけてみたいと思ったのだ。
優弦さんは井之頭さんに女中たちを集めるように指示して、居間に呼び寄せた。
五人はすぐに集まり、百合絵さんはすっかり生気を失った顔をしていて、もう私を睨んでくることもない。
彼女たちの前に立って、私はひとつ深呼吸をした。
今から話すことは、同情でも情けでもない。
ましてや、私が優しい人間だからという訳でもない。
私が私のために、けじめをつけたいと思っているのだ。
「たった今、全員の解雇を私の独断で取り消そうと思います」
「え……」
はっきりそう言い切ると、あたりには静寂が広がった。
隣にいる優弦さんも目を見開いており、何か言いたげな顔をしている。
「女中の取りまとめは、私に任されているはずです。初日に旦那様がそうおっしゃっていました」
私は一切動じずに、優弦さんにそう言い切る。
優弦さんは「そうだね」と静かに答えて、まずは私の意見を聞こうとしてくれた。
百合絵さんは初め困惑した顔をしていたけれど、すぐに怒りをあらわにした。
「私達に情けをかけるつもりですか……! 偉そうに……!」
「偉そう……? 何か勘違いしてますね。実際、今の私の立場はあなたたちより上ですよ」
しれっと答えると、百合絵さんは顔を真っ赤にしながらぐっと唇を噛み締めた。
私は、ここで彼女たちを切り捨てたからといって、何か得をするわけじゃない。
差別という問題に向き合うには、ここで権力だけを振りかざしては何の意味もないと思ったのだ。
じつは今朝、百合絵さんが泣きながら荷造りをしている様子を見てしまい、少なからず胸が痛んだ。
相良家への忠誠心がから回ってまさかこんなことになるとは、一ミリも思っていなかっただろう。
私と同じように身寄りのない彼女たちにとってここがどんな場所なのか……。私は、もっと向き合わなければいけないと思っている。
「え……彼女たちに話したいことが?」
出勤前の優弦さんに少しだけ時間をもらい、私は直球で相談した。
優弦さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに「分かった」と頷いてくれた。
私は頭を下げ、感謝を伝える。
昨日の夜までたくさん考え抜いたことを、やはり彼女たちに投げかけてみたいと思ったのだ。
優弦さんは井之頭さんに女中たちを集めるように指示して、居間に呼び寄せた。
五人はすぐに集まり、百合絵さんはすっかり生気を失った顔をしていて、もう私を睨んでくることもない。
彼女たちの前に立って、私はひとつ深呼吸をした。
今から話すことは、同情でも情けでもない。
ましてや、私が優しい人間だからという訳でもない。
私が私のために、けじめをつけたいと思っているのだ。
「たった今、全員の解雇を私の独断で取り消そうと思います」
「え……」
はっきりそう言い切ると、あたりには静寂が広がった。
隣にいる優弦さんも目を見開いており、何か言いたげな顔をしている。
「女中の取りまとめは、私に任されているはずです。初日に旦那様がそうおっしゃっていました」
私は一切動じずに、優弦さんにそう言い切る。
優弦さんは「そうだね」と静かに答えて、まずは私の意見を聞こうとしてくれた。
百合絵さんは初め困惑した顔をしていたけれど、すぐに怒りをあらわにした。
「私達に情けをかけるつもりですか……! 偉そうに……!」
「偉そう……? 何か勘違いしてますね。実際、今の私の立場はあなたたちより上ですよ」
しれっと答えると、百合絵さんは顔を真っ赤にしながらぐっと唇を噛み締めた。
私は、ここで彼女たちを切り捨てたからといって、何か得をするわけじゃない。
差別という問題に向き合うには、ここで権力だけを振りかざしては何の意味もないと思ったのだ。