天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
立ち向かうべきもの
▼立ち向かうべきもの
自室の窓を少し開けると、金木犀の香りがどこからか漂ってきた。
九月中に退職するかどうかを迫られた女中たちは、結局百合絵さんと他二人が残り、残りの二人は辞めていった。
正直、あんなに偉そうな態度を取ったら、誰も残ってくれないと思っていたけれど、一番離れていきそうな百合絵さんが残ってくれたことは意外だ。
どんな心境で受け止めてくれたかは分からないけれど、あれから仕事には真面目に従事して、嫌がらせをしてくることもすっかりなくなった。
辞めていった二人の背中を見ることは少し胸が痛んだけれど、腹を割って話した結果がこれならば、受け入れるしかない。
とはいえ、優弦さんが紹介してくれた財閥の家で働けるようだから、少しは安心だろう。ここの家とは違ってかなり厳しいルールがあると聞いたけれど……それはまた別の話だ。
「世莉お嬢様、百合絵さんがお庭のお花の手入れをしてくれたようですよ」
「まあ、後で見に行こうかしら」
「相変わらず私とは目も合わせてくれませんが、仕事はさすが丁寧ですね」
ばあやは私の着物を用意しながら、そんなことを感心したように言ってのけた。
私もそれに関しては同感だ。彼女の家事スキルはとても高く、几帳面な性格が仕事に活かせていると思う。
完全に分かりあうことは難しいことだろうけれど、このまま彼女が仕事をまっとうできる事を願うのみだ。
――彼女たちに、どうしてあんな言葉を?
あのときの優弦さんの表情は、今もまだ目に焼き付いている。
私のことを理解しようとしているような、そんな必死な顔に見えた。
私が出した答えを聞いて、彼は数秒固まっていた気さえする。
あれからまた優弦さんは仕事が忙しくなり、随分顔を合わせていないけれど、あのときの彼の心理はいったい……。
「世莉奥様、お部屋にいらっしゃいますか」
外から突然男性の声が聞こえて、私はすぐに「はい」と返事をした。
ばあやが障子をゆっくり開けると、そこには今日もパリッとしたスーツを着こなした井之頭さんがいた。
「朝から突然失礼いたします。奥様にお願いがありまして」
奥様、と呼ばれたことに思わずピクッと反応してしまったけれど、誤りではない。
自室の窓を少し開けると、金木犀の香りがどこからか漂ってきた。
九月中に退職するかどうかを迫られた女中たちは、結局百合絵さんと他二人が残り、残りの二人は辞めていった。
正直、あんなに偉そうな態度を取ったら、誰も残ってくれないと思っていたけれど、一番離れていきそうな百合絵さんが残ってくれたことは意外だ。
どんな心境で受け止めてくれたかは分からないけれど、あれから仕事には真面目に従事して、嫌がらせをしてくることもすっかりなくなった。
辞めていった二人の背中を見ることは少し胸が痛んだけれど、腹を割って話した結果がこれならば、受け入れるしかない。
とはいえ、優弦さんが紹介してくれた財閥の家で働けるようだから、少しは安心だろう。ここの家とは違ってかなり厳しいルールがあると聞いたけれど……それはまた別の話だ。
「世莉お嬢様、百合絵さんがお庭のお花の手入れをしてくれたようですよ」
「まあ、後で見に行こうかしら」
「相変わらず私とは目も合わせてくれませんが、仕事はさすが丁寧ですね」
ばあやは私の着物を用意しながら、そんなことを感心したように言ってのけた。
私もそれに関しては同感だ。彼女の家事スキルはとても高く、几帳面な性格が仕事に活かせていると思う。
完全に分かりあうことは難しいことだろうけれど、このまま彼女が仕事をまっとうできる事を願うのみだ。
――彼女たちに、どうしてあんな言葉を?
あのときの優弦さんの表情は、今もまだ目に焼き付いている。
私のことを理解しようとしているような、そんな必死な顔に見えた。
私が出した答えを聞いて、彼は数秒固まっていた気さえする。
あれからまた優弦さんは仕事が忙しくなり、随分顔を合わせていないけれど、あのときの彼の心理はいったい……。
「世莉奥様、お部屋にいらっしゃいますか」
外から突然男性の声が聞こえて、私はすぐに「はい」と返事をした。
ばあやが障子をゆっくり開けると、そこには今日もパリッとしたスーツを着こなした井之頭さんがいた。
「朝から突然失礼いたします。奥様にお願いがありまして」
奥様、と呼ばれたことに思わずピクッと反応してしまったけれど、誤りではない。