天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
「いつか本当の夫婦のように親しくなりたいと、俺は思っているよ」
本当の夫婦のように……?
そんなことは無理だ。だって私達はそもそも自然な結婚をしていない。
お互いに遺伝子の相性で決められただけで、そこに私的な感情は生まれていないのだから。
たとえ一瞬心を通わせたとしても、私たちの間には大きな壁がある。
「女中たちには、あれから何もされていない?」
何も答えない私を気遣うように、優弦さんは話題を変えてくれた。
その気遣いさえ、今の私には窮屈に感じる。
「はい。真面目に働いてくださっています……」
「そうか、よかった。大変な思いをさせてしまったね」
「いえ……、こういうことには慣れておりますのでお気にせず」
「こういうこと……?」
しまった。つい余計なことで口を滑らせてしまった。
私は慌てて口を閉ざすも、優弦さんはじっと私から視線を外さないでいる。
「子供時代にも、似たようなことがありましたので……」
「そんなことが……」
眉を顰めて苦しそうにしている優弦さんを見て、複雑な感情になった。
そんな苦い思いをさせた元凶は、相良家そのものだというのに。
自分の怒りを再燃させるためにも、私はこのことをあえて伝えようと思った。
「優弦さんのような、優秀な婚約者がいることを、疎まれまして」
「え……」
「なぜ私なんかがと、よく言われておりました」
淡々と、感情を全て抜いて、そう伝えた。
優弦さんは想像通りショックを受けた顔をして、そのまま口を閉ざした。
あまりに悲しそうな顔をするので良心が疼いたけれど、私はそれ以上に傷ついてきたのだ。言い聞かせるように心の中で唱える。
「つまらない話をしました。では、私はこれで……」
そう言って立ち上がろうとすると、突然ぐいっと手首を掴まれた。
そのまま、体は簡単に優弦さんの方へ倒れ込んで、再び布団の上に戻されてしまった。
「え……」
自分の戸惑った声だけが、広い部屋に響く。
がっちりとした腕に包まれ、完全に思考が停止した。
「君のことは、俺が生涯かけて愛そう」
「な、何を……」
「今まで、君が感じてきた悲しみの分まで……」
切なげに囁かれたと同時にぎゅっと腕に力を込められ、心臓が跳ね上がった。
どうして、そんなことを言うの。
思い切り恨みをぶつけた私に、どうして。
本当の夫婦のように……?
そんなことは無理だ。だって私達はそもそも自然な結婚をしていない。
お互いに遺伝子の相性で決められただけで、そこに私的な感情は生まれていないのだから。
たとえ一瞬心を通わせたとしても、私たちの間には大きな壁がある。
「女中たちには、あれから何もされていない?」
何も答えない私を気遣うように、優弦さんは話題を変えてくれた。
その気遣いさえ、今の私には窮屈に感じる。
「はい。真面目に働いてくださっています……」
「そうか、よかった。大変な思いをさせてしまったね」
「いえ……、こういうことには慣れておりますのでお気にせず」
「こういうこと……?」
しまった。つい余計なことで口を滑らせてしまった。
私は慌てて口を閉ざすも、優弦さんはじっと私から視線を外さないでいる。
「子供時代にも、似たようなことがありましたので……」
「そんなことが……」
眉を顰めて苦しそうにしている優弦さんを見て、複雑な感情になった。
そんな苦い思いをさせた元凶は、相良家そのものだというのに。
自分の怒りを再燃させるためにも、私はこのことをあえて伝えようと思った。
「優弦さんのような、優秀な婚約者がいることを、疎まれまして」
「え……」
「なぜ私なんかがと、よく言われておりました」
淡々と、感情を全て抜いて、そう伝えた。
優弦さんは想像通りショックを受けた顔をして、そのまま口を閉ざした。
あまりに悲しそうな顔をするので良心が疼いたけれど、私はそれ以上に傷ついてきたのだ。言い聞かせるように心の中で唱える。
「つまらない話をしました。では、私はこれで……」
そう言って立ち上がろうとすると、突然ぐいっと手首を掴まれた。
そのまま、体は簡単に優弦さんの方へ倒れ込んで、再び布団の上に戻されてしまった。
「え……」
自分の戸惑った声だけが、広い部屋に響く。
がっちりとした腕に包まれ、完全に思考が停止した。
「君のことは、俺が生涯かけて愛そう」
「な、何を……」
「今まで、君が感じてきた悲しみの分まで……」
切なげに囁かれたと同時にぎゅっと腕に力を込められ、心臓が跳ね上がった。
どうして、そんなことを言うの。
思い切り恨みをぶつけた私に、どうして。