天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
明かされる事実
▼明かされる事実
 
 十二月には毎年、相良家の一大イベントである総会が開かれることになっている。
 政界の有名な方も来るようで、ドレスコードもかなり厳しく設けられていると聞いていた。
 どんな服装にすべきか悩みに悩み、冬の植物である椿が施された赤い着物を選んだ。
 髪型はいつものように低めのシニヨンにして、着物の色が鮮やかな分、ボリュームを抑えよう。
 明日の着物の準備を終えた私は、仕事のメールをさばこうとパソコンに向き直る。
 もうすでに深夜の一時になろうとしている。目にくまができないように、もう寝なくては……。
 そんなことを思いながらメールを返していると、あるメールが目に留まった。
【相良病院で受けた差別について】
 告発するために、相良病院の悪い口コミを書いていた人にターゲットを絞って、ここ数年何人にも取材を申し込んでいた。
 こうした告発メールは一カ月に一本のペースで届いており、相当集まってきている。
 そっとメールを開くと、同じようにオメガ型の女性が、相良院長からひどい差別用語を言われたという内容だった。
 名指しで書いていないメールがほとんどだけれど、名指しの場合、ほとんどの確率で相良院長の名前が書かれている。
 逆を言うと、優弦さんの名前は一度も見たことがなく、やはり彼は旦那様とは全く違う人間なのだと分かる。
 一度火傷を手当てしてもらったことがあるけれど、あんな風に真剣に患者と向き合っているんだろう……。退院した子供たちからたくさん手紙が届いていることも、この前百合絵さんから聞いた。
 もし、私がこの告発内容を全て明らかにしたら――、優弦さんを頼りにしている患者さんはどうなってしまうのだろう……。
 そんな考えが頭をよぎった。
 万が一、相良病院が閉鎖されることになったら、告発者の思いは報われるかもしれないけれど、その逆の人たちもたくさんいるのだ。
 こんなこと、少し前までは考えたこともなかったのに……自分の考えがとても浅かったことに、幻滅する。
 私は告発メールをフォルダに移し保護すると、深い深いため息をついた。

「とてもお似合いです、世莉様」
「百合絵さん、ヘアセットまでできるのね」
 全て自分でセットしようとしていたけれど、髪やメイクは百合絵に任せてよかった。
 絶妙な色合いの赤い口紅が、椿柄の着物とよくマッチしている。
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