天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
髪の毛はシニヨンを今っぽく崩した形にセットしてもらい、いつもと違って新鮮だ。
どうやらメイクとヘアセットが趣味らしく、いつも動画を観て勉強していたらしい。
感心して鏡に映った自分を見ていると、百合絵は「お役に立てて光栄です」と少し照れくさそうにぼそっとつぶやいた。
事前に百合絵に出席簿を見せてもらったお陰で、今日の会にどんな人が来るかはだいたい把握している。
政治家から芸能人まで多岐に渡って招待しているようで、相良家の人脈の広さを改めて知った。
「もうこんな時間。百合絵さん、ありがとうございました」
「お迎えの車が既に手配されています。優弦様と一緒にご乗車ください」
「え……」
そうか。夫婦なのだから、同時に会場に入って当たり前だ。
木島家とのことがあってから何となく気まずい気持ちでいたけれど、二人で車に乗らなくてはならないのか……。
少し緊張している自分に気づき、私はふーっとひとつ深呼吸をした。
大丈夫。いつも通りに過ごせば……。
「いってらっしゃいませ、世莉様」
「いってきます」
荷物を持つと、私は車が用意されている駐車場へと向かった。
黒塗りの高級車の後部座席には、既にスーツ姿の優弦さんがいた。
専属のドライバーにドアを開けてもらい、優弦さんの隣に乗り込む。
「おはよう。素敵な着物だね」
目が合ってすぐにそんなことを言われ、ドキッとしてしまった。
「あ、ありがとうございます……」
「赤い着物も世莉に似合っている。綺麗だ」
恥ずかし気に俯く私などお構いなく、優弦さんは歯の浮くような言葉をかけてくる。
自分の顔が赤くなっていないか不安に思いながら、私は「とんでもございません」と小さく返した。
優弦さんは左耳側の髪を少しあげていて、グレーの高級そうなスーツを身に纏っている。
背が高く足が長いから、優弦さんはスーツがとても似合う。
足を組んで私のことを愛おし気に見つめてくる優弦さんに、どんな反応を返したらいいのか悩む。
――大切な妻を勝手に振り回されては困ります。
あの時の、優弦さんの真剣な顔が、いまだに頭から離れない。
大切な妻と、堂々と宣言されたことにも……。
「ネイルも着物に合わせているんだね」
突然手を取られ、じっと爪先を見つめられて、私は激しく動揺した。
どうやらメイクとヘアセットが趣味らしく、いつも動画を観て勉強していたらしい。
感心して鏡に映った自分を見ていると、百合絵は「お役に立てて光栄です」と少し照れくさそうにぼそっとつぶやいた。
事前に百合絵に出席簿を見せてもらったお陰で、今日の会にどんな人が来るかはだいたい把握している。
政治家から芸能人まで多岐に渡って招待しているようで、相良家の人脈の広さを改めて知った。
「もうこんな時間。百合絵さん、ありがとうございました」
「お迎えの車が既に手配されています。優弦様と一緒にご乗車ください」
「え……」
そうか。夫婦なのだから、同時に会場に入って当たり前だ。
木島家とのことがあってから何となく気まずい気持ちでいたけれど、二人で車に乗らなくてはならないのか……。
少し緊張している自分に気づき、私はふーっとひとつ深呼吸をした。
大丈夫。いつも通りに過ごせば……。
「いってらっしゃいませ、世莉様」
「いってきます」
荷物を持つと、私は車が用意されている駐車場へと向かった。
黒塗りの高級車の後部座席には、既にスーツ姿の優弦さんがいた。
専属のドライバーにドアを開けてもらい、優弦さんの隣に乗り込む。
「おはよう。素敵な着物だね」
目が合ってすぐにそんなことを言われ、ドキッとしてしまった。
「あ、ありがとうございます……」
「赤い着物も世莉に似合っている。綺麗だ」
恥ずかし気に俯く私などお構いなく、優弦さんは歯の浮くような言葉をかけてくる。
自分の顔が赤くなっていないか不安に思いながら、私は「とんでもございません」と小さく返した。
優弦さんは左耳側の髪を少しあげていて、グレーの高級そうなスーツを身に纏っている。
背が高く足が長いから、優弦さんはスーツがとても似合う。
足を組んで私のことを愛おし気に見つめてくる優弦さんに、どんな反応を返したらいいのか悩む。
――大切な妻を勝手に振り回されては困ります。
あの時の、優弦さんの真剣な顔が、いまだに頭から離れない。
大切な妻と、堂々と宣言されたことにも……。
「ネイルも着物に合わせているんだね」
突然手を取られ、じっと爪先を見つめられて、私は激しく動揺した。