天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 優弦さんの大きな手にすっぽりとおさまってしまった自分の手が、緊張で少しだけ震えている。
 彼が敵でないと分かった途端、こんなに少女のような反応になってしまうなんて……自分らしくなくて恥ずかしい。
「もしかして寒い? 羽織を取りに戻ろうか?」
「いえ、大丈夫です……!」
 寒くて震えていると勘違いした優弦さんがそんなことを言ってきたので、私は慌てて断った。
 優弦さんは「本当に?」と言って、私の手をぎゅっと包み込んでくる。
――どうか相良家の全てを、暴いてください。そして、変えてください。
 優弦さんの優しい顔を見ていたら、お義母様の言葉が、頭の中に蘇ってきた。
 私は……真実を知りたい。彼の口から、直接。
 そして、どんな事実でも、優弦さんの言葉をそのまま信じよう。
 自分の判断で、そう決めたのだ。もうひとりで悶々と悩んでいても意味はない。
 この会が終わったら……相良家の全てを確かめ、今後のことを話し合いたい。
 そう決意し、私は会場へと向かったのだった。
 
 誰もが知っている高級ホテルが会場となっていて、今日は一番大きなホールを貸し切っているらしい。
 ホテルに入ると、豪華な装飾が建物を埋め尽くしており、まるで美術館のようだと感じた。
 広いロビーには、浮き彫りの装飾が施された重厚感溢れるソファーと机が置かれており、美しい中庭がガラス越しに広がっている。上を見上げると、今まで見たことないほど大きなシャンデリアが煌めいており、その美しさに思わずため息が出そうになった。
 優弦さんにエスコートしてもらいながら中に入ったものの、こういう場所に来るのはかなり久々だったので、どうふるまったらいいのか分からないでいる。
 会場は、千人は余裕で入れるほど広く、すでに多くの人がお酒を片手に賑わっていた。
 立食形式なので、ゲストは丸テーブルを囲んで楽し気に話し込んでいる。
 テレビで見たことのある人が既に何人かいて、私の緊張はマックスになっていた。
「世莉。はぐれないようしっかり腕を組んで」
「は、はい」
「人が多くて疲れるだろう。最後までいなくて大丈夫だから」
 私を気づかうような言葉をかけてくれる優弦さんだけど、さすがこういった場所に慣れているだけあって、彼は全く緊張していないみたいだ。
 通りすぎる誰もが、優弦さんを見ると話しかけたそうにしている。
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