ワインレッドにさよならを
 好きな人は絶対に自分のものにはならないとわかっていたのに、恋をした。

 誠一の左手の薬指に指輪がはまっているのも理香にはわかっていた。

 互いに好きだと言ったことは一度もない。

 上司と部下、その一線を越えてしまうことがどんなにいけないことなのか頭ではわかっていた。
 

 それでも止められなかった。

 恋は落ちるものだというのを、生まれてはじめて理解したような気がした。

 心の落下速度に自分の頭さえもついていけず、ただ目の前のこの男が欲しいと、それだけの気持ちに心が支配されていく。
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