ワインレッドにさよならを
 酔った勢いというほど互いに酔ってはいなかったと思う。

 離れがたいと理香が思っているように、誠一も同じ気持ちになってくれたのだと思った。

 二人で食事をして、そのままホテルに行ったのは自然の流れであり最善の選択だったのだとその時は思った。

 理香よりも十歳近く年上なせいなのか、理香が入社した初々しい頃を知っているからなのか、誠一は理香を子供扱いする節があった。

 悪気はないだろうしそれは決して不快なものではなく、むしろ包容力のある彼に甘えられる心地よささえあったけれど、理香は彼に部下ではなく一人の女として意識してほしかった。

 だから、彼に対等に扱ってほしくて、いいオンナだと思ってほしくて精一杯背伸びをしていた。

 もともと童顔気味の顔をしている理香だったけれど、大人っぽく見えるようにメイクを変えて、鮮やかなワインレッドを唇に塗った。

 髪を巻いて、大人びたワンピースを着て、高いヒールを履いて、そうして彼の気を引きたかった。
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