ワインレッドにさよならを
 柔らかなベッドの上に体を横たえて、覆いかぶさる彼の顔を見つめると胸が切なく震えて泣きたくなった。
 
 彼の左手の薬指の指輪からは目をそらして、優しい口づけを受け入れた。

 優しく労るように理香の唇を啄んで、それから徐々に彼の欲望をぶつけられるのが嬉しくて、幸せだとすら思った。

「せいいちさん、……せ、―……いち、さんっ、」

 好きだとは言えない。

 だから名前を呼んだ。

 何度も何度も。

 くしゃりと目尻に皺ができて、誠一は笑うと少し柔らかい印象になる。
 その笑顔を向けられるのも嬉しかった。
 
 自分は彼の特別なのだと思えた。

 何度も、「うん、」と呼びかけに応えてくれて、優しく優しく丁寧に理香の身体に触れていく。
 大事に大事に、彼に愛されているようで嬉しかった。
 
 その仕草の一つ一つが好きだった。
 
 本気だとは悟られてはいけない。そうしたらこの関係は終わるから。


 それから何度も何度も理香は誠一と身体を重ねた。
 
 彼に求められると嬉しくて身体も心も震えて、溶けて、彼さえいればいいだなんて本気で思ってしまいそうなくらい熱に浮かされた頭は愚かになっていく。

 このまま一つになれればいいのに、だなんで、馬鹿な幻想を本気で抱いたものだった。
< 6 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop