ワインレッドにさよならを
 けれど、朝方目が覚めると彼は隣にいない。

 その度にもう温もりさえ残っていないシーツを見て現実を突きつけられる。

 当たり前だ、誠一は理香のものではない。
 彼は他の女性の元へ帰るのだ。彼には家庭がある。

 不毛な恋だと思い出すけれど、手放す気にはなれなかった。

 ずるずると、だめだ、やめなくてはと頭ではわかっていながらもずっと関係は続いていた。

 ずるい男だと思う。
 
 優しくて、時に情熱的で、理香を大事にしてくれる。
 そのくせきっと家庭でもいい旦那であろうことがわかるから、理香はそれ以上踏み込めなくなるけれど、自分といる時は彼も自分を愛していると錯覚しそうになるほどに夢を見せてくれるのだ。

 ずるくて、ひどくて、いい男。

 理香は恋に溺れていった。

 泳ぎ方を忘れて、そのまま彼の腕だけを求めていられたらよかったのに。
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