ワインレッドにさよならを
――……けれど、終わりというものはあっけなくやってくる。

 終わらなければと理香に決断させたきっかけは、ほんの些細なことだった。

 彼と妻が歩いているのをたまたまま街で見かけたからだ。

 彼に似合いの凛とした佇まいの女性だった。
 彼に似合いたくて必死で無理をしている理香とは違う。
 彼の隣にいることが当たり前で、それが何よりも自然に見えた。

 彼の妻は気の強そうな印象の美人だったが、誠一を見つめる顔は優しく、時折笑うと印象が柔らかくなる。
 そんなところも彼によく似ていると思った。
 似た者夫婦だ。

 誠一が彼女を見つめる瞳は自分を見つめる時の瞳よりももっと優しくて特別な意味を持っていた。
 それがきっと夫婦というものの為せる技なのだろうか。

 理香にはわからない。
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