不妊の未来
大和「うん。いいですね。この感じで本番もいきましょう」
頷く大和に茉由は両手を組み、ギュッと握り締める。
その様子に大和が不思議そうな顔を向ける。
大和「どうかしました?」
茉由「あぁ。へへ。ダメなんです、私。何十回、もしかしたら何百回も経験しているのに、毎回緊張してしまうんです」
大和は茉由の小刻みに震える手を見つめる。
そしてそっと触れた。
ハッと顔を上げる茉由。
大和は自分の無意識の行動に戸惑いながらも、すぐに真剣な表情で茉由を見下ろし告げる。
大和「あなたなら大丈夫です」
茉由「え?」
茉由が聞き返すと大和は言葉を加える。
大和「鷲尾さんは周りがよく見えていて的確な状況判断ができる。トラブルが起きても越権行為にならない立場に沿った対応ができる。驕りがない。そしてなにより患者を第一に考えられる。だから僕はあなたを信頼しているのですよ、実は」
大和は滅多に褒めない。
だからこそ茉由は言葉を疑った。
でも大和の口調こそ軽いけど、目は真剣で煽てているのではないと気づいた。
その上で茉由はどんな反応を取るべきか。
悩んだ挙句、おどけてみせる。
茉由「や、やだなぁー」
茉由は大和が触れている手をパッと離し、あえてテンション高く言う。
茉由「そんなに褒められると余計緊張しちゃうじゃないですか!」
大和「あ…ハハ。そうかもしれないですね。でもやっと笑ってくれた」
茉由は自身の表情が固くなっていたことに言われて気付いた。
その理由はおそらく杏菜との会話にもあったのだけど、そのことは頭を振って追い出す。
茉由「笑顔、笑顔!笑顔大事ですよね」
大和「えぇ。笑う門には福来る、です」
大和の言葉に茉由は頷きながら、タイミングよく入ってきてくれた移植チームのスタッフと言葉を交わし、患者を呼び入れ、無事に胚移植を終えることが出来た。