不妊の未来
茉由「おかしいな?そろそろなのに」
大和「なにがですか?」
背後から聞こえた低い声。
驚きつつ、勢いよく振り返ると、茉由のポニーテールの髪が大和の肩に当たった。
それほどまでの近距離に人影があったのに、気がつかなかったなんて。
茉由「や、大和先生?!あ、えっと、なにか御用でしょうか?」
後ろ手に検査薬を取り、一歩、二歩と大和から距離を置く。
大和「灯りが点いていたので」
大和は人差し指を天井に向けた。
茉由は指先を追い、「あぁ」と納得の声をあげる。
ここ最近、事務長が『節電』を掲げているのを思い出したのだ。
茉由「すみません。もう帰ります」
小さく頭を下げて、挨拶もそこそこに大和に背を向け、ロッカーへと足を向けた。
でも大和の低い声が茉由を止める。
大和「それ」
茉由の体がビクッと反応した。
「それ」に続く言葉が何なのか、おおよその予想が付いたから。
聞こえないフリをしようか。
でも足が止まってしまった以上、振り向かずにはいられない。
意を決して振り向くと天井に向けられていた大和の人差し指が茉由の手元に向いた。
大和「誰のですか?」
やっぱり。
決してやましいことはしていないのに、大和の真っ直ぐな視線が罪悪感を抱かせ、無断で検査薬を使用した訳じゃないにしてもビクビクしてしまう。