不妊の未来
大和「ありがとう」
茉由「いえ。では私はこれで」
茉由は小さく会釈をして仲間のところへ戻ろうと足を向けた。
大和「あ、ちょっと待って」
大和が茉由の腕を掴んだ。
茉由は反射的に振り返り、大和を見上げる。
茉由「どうかしましたか?」
大和「え?あ、いや。えっと」
大和は茉由から手を離し、無意識のうちに茉由を引き留めたことに少し戸惑っている様子。
そんな大和を茉由は首を傾げて見つめる。
茉由「なにかお話しが」
あるのかと聞こうとした時、会場のライトが暗くなった。
幹事「みなさま、お待たせいたしました!くじ引きのお時間がやってきましたよー!」
幹事の声が会場内に響き渡る。
茉由と大和はその場で高砂に立つ幹事を並んで見る。
幹事「今年の一等の賞品は不妊治療の第一人者である院長ご推薦の子宝の湯!超有名旅館の宿泊券でーす!」
同僚「毎年同じー!」
会場内がざわつく。
予想通りの景品に同僚たちは茉由を見て、そして互いに肩をすくめて笑い合った。
そのやり取りを見ていた大和が茉由に話しかける。
大和「宿泊券、ほしいんですか?」
茉由「え?あ、そうですね。はい。旅行なんて全然行けてないですから。どんな名目であったとしてもいただけるものはいただきたいです。それにここで当たれば休みも取りやすいですよね?」
茉由は確認するように大和を見上げた。
大和はフッと柔らかく微笑む。
大和「たしかに宿泊券渡しておいて休ませないなんてことには出来ませんね」
茉由「フフ。ですよね」
茉由は満足そうに頷いてみせる。
その姿を大和が愛おしそうに見つめる。
でもその視線に茉由は気付かない。
茉由が見つめるのはくじ引きがなされようとしている舞台上。
くじ引きをする院長が壇上へ上がった。
同僚「院長!お願い!25番でー!」
同僚「8番、お願いしまーす!」
あちらこちらから声が上がる。
院長が「任せたまえ」と言わんばかりに親指を立て、それから用意されている箱に手を入れた。
効果音が流れ、止まったと同時に院長の手が箱から出る。
幹事「番号はー?」
院長「17番!」
会場が一瞬静まり返り、直後ワッと声が上がる。
茉由も手元の番号札を見て肩をすくめる。
茉由「残念」
大和「でしたら替えてあげましょうか?」
茉由「え?」
見れば大和の手元には17番のカードがあった。
茉由「大和先生!当たりじゃないですか!」
茉由の大きな声が会場に響いた。
視線が一斉に大和に注目する。
大和「あなたという人は」
呆れたような大和だけど、知れ渡ってしまったものは取り戻せない。