不妊の未来
○リビング
風呂から上がってきた理玖。
配膳をしている茉由が理玖に話しかける。
茉由「理玖さん、明日は仕事終わるの遅い?」
早く帰ってきてほしい。
そろそろ排卵日だから。
遠回しに言うくらいなら直接話題にしてくれたらいいのに、と理玖は思う。
気を使うことのできる茉由を素敵な女性だと思って結婚を決めたはずなのに。
理玖「やっぱり話さないとだめだな」
このままでは茉由のことを嫌いになりそうだという恐れを理玖は感じた。
理玖はふぅっと小さくため息を吐く。
茉由「理玖さん?」
首を傾げる茉由に理玖は立ったまま答える。
理玖「ごめん。明日は帰りが遅いんだ。仕事量は変わらないんだけど、ここ最近、人事の入れ替わりが激しくて」
黙ったままの茉由に理玖は言葉を重ねる。
理玖「結婚とか産休とか育休とか?ほら、今は男女関係なく休みを取るから」
理玖はうまく話を運ぶ。
なるべく重たくならないように口調に気をつけながら。
理玖「でも困るんだよなー。妊娠出産で周りにどれだけ負担がかかるか、知らないはずじゃないのにさ」
茉由「え?」
理玖が誰かを悪く言うこと自体珍しいのに、話題が話題なだけに茉由は驚きを隠せない。
次の言葉を待つ茉由に、理玖は思い切って正面からぶつかった。
理玖「俺はそういう迷惑かけるようなことはしないようにしたいんだ。だから子供のこと。うちらはもう潔く諦めよう」
茉由「それは…えっと、仕事のために?」
茉由が聞くと理玖はソファーに腰掛け、自然体を装い答える。
理玖「子供のいない夫婦だってたくさんいるんだ。お金かからなくて自由で最高って言ってる同僚もいるんだぞ。旅行だって行き放題だ。そんな生活いいと思わないか?」
茉由「そうかもしれないけど」
子供が欲しい茉由にとっては納得がいく理屈ではない。
頷かない茉由に理玖は言葉を加える。