不妊の未来
でも冷静さを取り戻している茉由は、そんなの無理だと首を横に振る。


茉由「離婚するつもりはありませんので」

大和「凍結胚がほしい、とまで言うほど追い詰められているのに?今まで通りの生活が送れますか?」

そこはたしかに図星だったので茉由は視線を下げた。
するとまた大和が茉由の体を優しく包み込む。

大和「僕のところに来ればいい」

茉由は大和の言葉を理解するのに時間が掛かった。
いや、正直理解出来ていない。

茉由「なにをおっしゃっているんですか。ほんと、冗談はやめてください」

茉由は混乱しながらも笑って去なした。
でも大和は「冗談じゃない」と真面目な顔して言う。

茉由「いえ。冗談ですよ」

茉由が理玖と別れて大和と再婚だなんてあり得ない。

茉由「そもそも大和先生、私のこと別に好きでもなんでもないですよね?」

大和とは仕事上、接点はあったとしても個人的な関わりはなく、プライベートな会話をしたのだって片手で数えられるくらいだ。
それなのに。

大和「僕は鷲尾…茉由さんのことが好きだ。出来ることなら今すぐにでも僕のものにしたいくらいにあなたのことが好きです」

大和のストレートな言葉はさすがに茉由の心に響き、体がカァッと一気に熱くなる。

でもそんな素振り一度も見せたことがないし、感じたこともないから、嬉しいという気持ちより信じられないという想いが先行する。


茉由「同情とかそういうのでしたら必要ありませんから」

重たくならないように平静を装い言った。

でも大和は真顔で首を横に振る。

大和「同情して僕に何の得がありますか?言ったでしょう、『好きだ』って。これ以上、なにを言えばいい?なにを言えば信じてくれますか?」

茉由「そんなこと言われましても」

混乱して目が泳いでしまう茉由。

その姿をみかねた大和が、突然茉由の両頬を大きな手で包んだ。

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