不妊の未来
第九章
○培養室(昼)
午後からの移植の準備を進める茉由と杏菜。
どことなく上の空の茉由に杏菜が話し掛ける。
杏菜「鷲尾さん、前にも聞きましたけどなにかありました?」
茉由「え?どうして?」
茉由が聞くと杏菜が茉由の手元に視線を向けた。
茉由はその視線の先を追い、ハッとする。
茉由「わ!これ採卵のだ」
茉由は手元に用意していた器具を間違えていた。
気がついたからよかったものの、移植が始まってからでは周りに迷惑をかけていた。
茉由「ごめん」
杏菜「私もよく間違えるので大丈夫ですけど…ほんと、なにか悩んでいるなら聞きますよ?」
茉由「ありがとう。話せる時が来たら話すね」
茉由は杏菜の気持ちをありがたく受け取りつつ、大和が関わっていることだからと話すことは避けた。
対する杏菜は確実に様子のおかしい茉由を心配していた。
と同時に話してくれないことに距離を置かれている気がして切なくなっていた。
それでもプライベートなことなのだろうと聞くのは諦め、話題を変えることにした。