不妊の未来
○茉由自宅(夕方)
学会へ行く荷物を取りにマンションへ戻った茉由。
理玖のいない時間を見計らい、早上がりの夕方に来た。
茉由「ただいま」
クセでいつもの挨拶を口にしてから部屋に上がる。
3週間ぶりの部屋はなんだか別の空間のようで違和感があった。
リビングへと続くドアを開ける。
余計なものがないシンプルな部屋は埃ひとつなく、綺麗に掃除されていた。
ここへ来る前、洗濯物が山積みかもしれない、キッチンにはカップラーメンのカップが山のようにあって、ビール缶がそのままで、ゴミ袋も出さずに食器も水に浸かっているだけかもしれない。
全部家事は私がやっていたから。
そんな風に茉由は想像していた。
でも現実は違う。
理玖は一人でもしっかりと家事をこなしていた。
綺麗な部屋を見て、茉由の口元は笑うのに、目には涙が浮かぶ。
茉由「私、必要ないじゃん」
茉由の切ない声が部屋に吸い込まれていく。
茉由「子供も授かれない私が理玖さんと一緒にいる意味ってなに?」
やりきれない想いが溢れる。
でも当然誰も答えてはくれない。
茉由は急いで旅行鞄をクローゼットから取り出し、必要なものを詰め、足早にその場から出ていった。