不妊の未来
○茉由自宅(夜)
理玖「ただいま」
「おかえりなさい」の声がないことは分かっているのに、理玖はクセで挨拶をしてしまう。
ただし暗い部屋に灯りを点けるのは慣れてきた。
理玖「疲れた」
産休、育休の人手不足に加えて新人研修、新規の仕事が重なり、疲労はピークだった。
茉由「先にお風呂入る?」
ソファーに座り、目を閉じると茉由の声が聞こえた気がして目を開ける。
でも当然部屋に茉由はいない。
理玖「食事の用意しないと。それから風呂入れて、洗濯して……」
茉由がいつ帰ってきてもいいように、そしてその時に幻滅されないように茉由がしてくれていたのと同じことを理玖はしているけど、自分一人の分だけなのに正直キツかった。
茉由が出て行ってからいかに茉由が多くのことを仕事と両立してやっていてくれたかに理玖は気がついたのだ。
その上、夕食は理玖を待っていてくれて、理玖の話にも耳を傾けてくれて、いつも笑顔でいてくれて。
理玖「茉由……」
茉由の存在の大きさを改めて感じる理玖。
だったら迎えに行けばいい。
そう思うのだけれどもどうしても迎えには行けない。
茉由にまた離婚を言い渡されるのが怖いから。
茉由は理玖にとって最上の女性だから。