不妊の未来
大和「すみません。どうぞ」
大和の声に茉由が振り返ると、杖をついたご老人が歩いていて、歩きやすくするために茉由を道端に避けたのだと分かり、意識した自分を恥ずかしく思う。
茉由「すみません」
大和「いえ。それより立ち話もなんですから」
大和はそう言うと車の方を一度見てから茉由に視線を戻して続けた。
大和「一緒に食事でもいかがですか?」
茉由「あ、すみません。家に帰らないと」
大和「そっか。それは残念。じゃあせめて家まで」
茉由「お気持ちだけで」
茉由は大和が言い終える前に断った。
大和「ハハ。随分警戒されていますね。でもいい傾向です。前よりも近づけた気がします。そうだ、連絡先教えてくれませんか?」
渋る茉由に大和はスマートフォンを取り出した。
大和「きっと必要になりますから」
茉由「そうでしょうか?」
大和はコクっと頷いた。
それから茉由がスマートフォンを出すのをじっと待つ大和。
茉由は仕方なくカバンからスマートフォンを取り出し、連絡先を交換した。
でも茉由の表情は浮かない。
大和「大丈夫ですよ」
大和が見かねて声をかける。
大和「鷲尾さんの気持ちが固まるまで僕からは連絡しないから」
茉由「あ…ありがとうございます」
大和の優しい配慮に触れて茉由の胸はじんわり温かくなった。
大和「じゃあまた。道中気をつけて」
茉由「先生も」
茉由は大和の車が道の角を曲がるまで見送っていた。