不妊の未来

○新幹線車内(朝)

茉由と杏菜は横並びに座る。

杏菜は京都の旅行誌を見ながら茉由に話し掛ける。

杏菜「京都、修学旅行以来なんですけど、鷲尾さんは?」

茉由「私は新婚旅行に行ったのが最後だから3年ぶりかな」

茉由の言葉に杏菜の手が止まった。

杏菜「新婚旅行、国内だったんですか?」

茉由「うん。私、飛行機苦手で。一緒の休みも2日しか取れなかったから」

茉由は言いながら杏菜の手から旅行誌を借り、ページをめくる。

茉由「ここ。すごくいい旅館だったよ」

杏菜は茉由から旅行誌を取り戻し、そのページに目を通す。

杏菜「一泊18万?!」

杏菜の大きな声に茉由は驚き、周りの乗客を見回し、頭を下げる。

茉由「もう少し声のボリューム落とそう?私も大きいけど」

杏菜「だって一泊18万って…しかもここに二泊してるんですよね?信じられない。贅沢過ぎ。鷲尾さんのご主人って何者ですか?」

茉由「何者って…そうね。何者なのかしらね」

茉由は切なく微笑む。
その様子に杏菜は首を傾げるだけにした。
「なにかありましたか?」と聞いても答えないと思ったから。
でも長い道中とあって、茉由は口を開いた。

茉由「うちの主人はなんでも完璧なの。見た目も家事も仕事も。だから私なんて必要ないの。きっと私じゃなくてもいいくらい」

杏菜「そうなんですか?」

怪訝そうな顔をして聞く杏菜に茉由は頷く。

茉由「子供もいらないんだって。そうなると私がいる意味ってなに?って思わない?」

杏菜「うーん」

杏菜は茉由がなにに悩んでいたのか分かり、話してくれたことに嬉しさを感じる反面、結婚そのものの意味がよくわからなくなった。

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