不妊の未来
○学会会場(夕)
講演内容を最後まで聞いた茉由と杏菜。
会場から出ようとすると、杏菜がキョロキョロと辺りを見回し始めた。
茉由「どうかした?」
杏菜「大和先生どこかな、って」
茉由「本当に来てるの?」
杏菜「大和先生のお友達が講演するから聴きに行かなきゃいけないって、大和先生本人から聞いたんです」
だとしても1000人以上が入る会場内で探すのは難しい。
茉由はそういえば、とスマートフォンを取り出して大和先生を呼び出した。
杏菜「鷲尾さん、大和先生の番号知ってるんですか?」
驚く杏菜。
でも杏菜の声は会場の喧騒と耳元のコール音で茉由には聞こえない。
聞こえてきたのは電話越しの大和の声だった。
大和「はい」
茉由「……あ、大和先生ですか?あの、今、京都の学会会場に来ているんですけど」
大和「知っていますよ。そのまま扉口まで歩いて来てください」
大和の口調から、大和からは茉由たちが見えていることがわかった。
茉由は辺りを見回し、それから杏菜を誘い出口まで歩く。
大和「扉から出たら出口とは逆の控え室の方に来てください」
茉由「控え室だって」
杏菜は茉由に頷く。
言われた通りに歩いて行くとスーツ姿の大和が立ち、手を振っていた。
茉由は通話を切り、杏菜の隣を歩く。