不妊の未来
第十一章
○京都店(夜)
路地行灯と表札のみを掲げたふつうの民家のような佇まいのお店。
中は座敷とカウンター席があり、座敷の方へと通された。
大和の隣に茉由。
茉由の向かいに益田。
益田の隣に杏菜が座る。
大和「では改めて乾杯」
大和の合図でお猪口を合わせる。
茉由もせっかくだからと、久しぶりに日本酒をいただくことにした。
茉由「美味しい」
益田「口にあってよかった」
ニコリと微笑む益田に茉由は疑問を投げかける。
茉由「益田先生は他の講師の先生方とお食事に行かれなくてよかったんですか?講演会後って大体、食事会ありますよね?」
益田「あるけど堅苦しいのは苦手で」
杏菜「私たちはお邪魔じゃなかったですか?」
益田「とんでもない。こんなに綺麗な女性と食事出来るなんて嬉しいですよ。事前にわかっていたらもう少しいいお店を予約したのに」
茉由「いえ、とても素敵なお店です。京都に来たらまた寄らせていただくと思います」
茉由が店の中を見ながら笑顔で言うと益田は満足そうに微笑んだ。
益田「その時は連絡してもらえたらご一緒しますよ。ということで連絡先を」
スーツのポケットからスマートフォンを取り出す仕草をする益田を大和が止める。
大和「美人の奥さんが泣くぞ」
杏菜「ご結婚されているんですか?」
杏菜に聞かれて益田は左手の薬指を見せた。
そこにはシンプルなシルバーのリングがはめられている。
益田「お二人は?」
益田は二人の左手に視線を送りながら聞いた。
大和「鷲尾さんは既婚者だよ」
益田「え?!」
益田の驚きように茉由と杏菜は不思議そうに視線を交わす。
茉由「既婚者に見えませんか?」
益田「え、あ、いや」
益田は大和に視線を送ってから、茉由の手元に視線を向けた。
その視線の先に茉由は気付く。
茉由「仕事で汚れると嫌なので」
益田「あ、そ、そうなんだ」
益田はまた大和の方をチラッと見る。
大和はその視線に気付きながらも日本酒に口をつけた。
益田「ちなみにお子さんは?」
茉由「いません。先生は?」
益田「いないですよ。専門家なのに、って言われますけどね。子供は作る気ないので」
茉由「え?」
杏菜「え?」
ふたりの声が揃った。
益田が笑う。