不妊の未来
茉由「はぁ」
茉由はため息を小さくひとつ吐き出し、乾いた笑いと共に言う。
茉由「あなたは何一つ願いを聞いてくれないのね」
子供が欲しいと言っても、検査を受けて欲しいと言っても、離婚して欲しいと言っても、すべて拒否する理玖に、茉由の心は疲れ切ってしまった。
理玖が譲歩してくれて、少しでも寄り添ってくれる気持ちが見えたのなら離婚だって茉由は思いとどまったかもしれないのに。
茉由「私だけが我慢しなければならないなんて。このまま関係を続けていくのはもう無理。離婚してお互いに新しい生活を送りましょう」
茉由の冷静な口調に理玖は苛立ちを覚えたけど、歳上だという理性からギュッと拳を握りしめ、怒りを抑える。
ただ理玖は確認せずにいられない。
理玖「俺と離婚してヤツのところへ行くのか?」
同じ質問の繰り返しに茉由は悲しくなった。
どこまで信じてもらえないのだろうと。
でもきっと何度でも言わなければ伝わらない。
茉由は低い声で言う。
茉由「私は大和先生とお付き合いしたりしていないし、これからもしないわ」
理玖「そんなこと、信じられるかよ」
理玖はスマートフォンの画面に目を落とす。
そこにはなにも写ってはいないけど、大和が茉由の頬に触れている写真の残像が理玖には見えるのだ。
たしかにそんな写真を見たら信じてもらえないのも分かる気が茉由にはした。
でも目の前にいる本人を見ずに、写真の方を信じる理玖を見て、茉由は余計に悲しくなった。
茉由「はは…もうなにをどうしたらいいのか分からないや」
茉由が乾いた笑いとともな呟くと理玖は顔を茉由の方に向けた。
切なそうに微笑む茉由が目の前にいる。
理玖「そんな顔」
させたくなかった。
今更後悔しても仕方ないし、茉由と大和の関係の疑いが晴れたわけでもないけど、理玖は茉由には笑っていてほしかった。
できることなら理玖の隣でいつまでも。
茉由から笑顔を奪ったのは理玖本人なのに。
茉由の歪んだ笑みを見てようやく理玖は状況を理解した。