不妊の未来
○回想(茉由実家)
実家に帰ってから茉由はしばらく自分の部屋にこもり、今後のことをじっくりと考えた。
その上で出した結論をまずは両親に伝えようと夕食を終えたタイミングで話を切り出した。
茉由「あのね、私、卵巣の病気なんだって」
母「え?!なによ、それ」
父「どういうことなんだ?」
突然の話に両親は揃って驚いた。
少し唐突過ぎたかもしれないと茉由は思い、
病気自体は悪いものではないこと、でも摘出はしなければならず、片方の卵巣は残っていても妊娠はしにくいことを両親に分かりやすく、かつ重くならないよう端的に伝えた。
両親は顔を見合わせ、それから母が茉由に問いかける。
母「その話、理玖さんは知っているの?」
茉由は首を横に振る。
父「夫婦で話さないとダメなことだろう」
茉由「そうだね。でももう理玖さんとは別れようと思っているから」
さらなる爆弾発言に両親の口はあんぐり空いてしまう。
母「どういうことなの?もしかしてここに来たのも、出張って話も嘘?いつから……」
母の言葉が途切れた。
茉由の顔が強張っているのが見えたから。
キッチンに立っていた母は茉由の隣に腰掛け、そっと背中に手を当てた。
母「なにがあったのか、話してごらん」
母の優しい声に茉由は口を固く結ぶ。
そうしないと涙が出てきそうだったのだ。
母「まったくこの子は小さい頃から一人で抱えちゃうのよね。そういうとこ、成長してないわ」
父「親を頼ってくれていいんだ。話しにくいかもしれないが、話してごらん。一緒に考えよう」
両親の寄り添う優しさが茉由の胸を温め、目からは涙が溢れてきた。
平気なフリをしていたけど、茉由の心は限界だったのだ。
だから吐き出すように理玖が子供を望んでいないこと、でも茉由は欲しかったこと、病気になってしまったことを一気に話した。
泣きじゃくる茉由に母はそっとハンカチを差し出し、背中をゆっくりとさする。
茉由「ごめんね」
母「なにが?」
茉由「お母さんとお父さんに孫の顔見せてあげられなくて」
父「そんなこと気にするな」
母「そうよ。私もお父さんも茉由が元気でいてくれたらそれだけでいいの。だから病気はきちんと治そう、ね?」
茉由はコクっと頷く。
母「でも理玖さんとのことは」
母は父を見る。
父はその視線を受けて茉由に話しかけた。